第4話 成長しました

 川で水を飲み人心地ついて私は油断していたのだろう、此処は魔物が生息する異世界の森だということを。無防備を晒している私の後方からガサリと藪をかき分ける音が聞こえ、私が振り返るのと、それが飛び出してくるのは同時だった。


「うわ!」


 我ながらなんとも色気のない悲鳴だが、そんなものも気にせず飛び出して来た焦げ茶の毛並みの大型犬のような魔物(ただの動物かも知れない)が、咄嗟に前に出した私の左腕に噛み付いてきた。


 魔物は私の左腕を噛みながら押し倒し、牙に力を入れるがこちらも黙って噛み付かれているつもりもない。私はスキル【爪撃】を発動させながら右手を振るうと、私の右手は魔物の腹を容易く切り裂いた。


「ギャン!」

「え?」


 魔物が悲鳴をあげながら地面に倒れ伏すと、そのまま動かなくなる。一方の私はというと、あまりの呆気なさに驚き固まっている。左腕は痛いし魔物の腹を裂いた嫌な感触も残っているが、それ以上に困惑が勝っていた。


「ま、まぁ倒せたから良いかな!」


 初遭遇がパラライズサーペントという大蛇だったのだ、森をうろついている野良犬などそんなものかと開き直ることにした私は、そのまま魔物なら魔石があるかも、と探して取り出していた。


『フォレストドッグの魔石を確認しました。

 領域を確認、領域が不足しています』


 魔石を手にするといつもの声が頭に響くが、内容がいつもと違っていた。


「やっぱり表示されてた数字は領域の空きを指してたんだねぇ」


 私は納得しつつも少し残念な気持ちになっていた。そんな私の気持ちを察してくれたのか(そんなことはないだろうが)さらに声が響いてきた。


『取り込んだ魔石を外せば領域を確保することができます、外した魔石は消失します。外しますか?』

「いやいやいや! 外さないから!」


 即答である。

 初めて声が私に返答を求めてくれたのは嬉しくもあるが、既に取り込んである魔石はどちらも私の生命線である、取り外すなんて選択肢はあり得なかった。


『取り込んだ魔石をリンクする事で領域を確保することができます、リンクしますか?』

「まともな方法があるなら先にそっちを提案して欲しかった! リンクするとどうなるの?」


 消失よりは良いとは思うが、どうなるかがよく分からないので確認してはみたものの、返事が返ってくることはなかったので、悩みはしたが私はリンクとやらをしてフォレストドッグの魔石を取り込んでみることにした。


『ドラゴンパピーとパラライズサーペントの魔石をリンクしました。

 これにより一部スキルが変化します。

 スキル【麻痺牙】が【麻痺付与】に変化しました。


 フォレストドッグの魔石の取り込みが完了しました。

 スキル【獣の嗅覚】【牙撃】が

 使用可能になりました。

 【牙撃】は重複するため表示されません』


「おぉ〜って血、鉄くさっ!」


 リンクしたことによってスキルが消えるかも? と考えていたが杞憂だったようだが、手に入れた【獣の嗅覚】の影響のせいか倒れているフォレストドッグの匂いが鼻についた。気休めにもならないが私は少し距離を取るとスキルを確認していくことにする。

 


名前:

領域:〈ドラゴンパピー+パラライズサーペント〉

    フォレストドッグ(0)     

スキル:【体力自動回復(少)】【牙撃】【爪撃】

    【麻痺付与】【毒食】【獣の嗅覚】


【麻痺付与】対象に触れると麻痺させる。


【獣の嗅覚】獣のような嗅覚を手にする。


「相変わらず説明が雑だなぁ……」


 私はぼやく。スキルに助けられている身ではあるが、もう少しだけ細かい説明が欲しいところである。【獣の嗅覚】は良いとして、【麻痺付与】の説明では誰にも触れないのでは? と思ってしまう。これに関しては後々、魔物か何かで試すしかないだろう。


 そろそろ辺りも暗くなってきている。左腕はだいぶ痛みが引いてきたようだし、フォレストドッグの肉を齧りながら思考に耽る。


(【獣の嗅覚】があれば魔物の接近にも早い段階で気付けるようになるはずだし、【毒食】で食料事情もどうにかなりそう。あとは住む場所……村の物置小屋では寒くはあったけど冬が越せていたから、あとは雨風凌げる場所の確保かぁ)


 スキルのおかげでどうにか生きていけそうだと、思えるようになってきた。肉を食べ終わった私は、【獣の嗅覚】を頼りに魔物の匂いが薄い場所を求めて歩き出した。







 朝、太陽が昇りはじめる頃に私は起き出す。昨夜、川から少し歩いたところで大きな木を見つけた私は【爪撃】で木の内側を削り、その中に潜り込み丸くなって眠っていた。この場所は川も近いので様子見しながら問題なければ、ここに潜むのもいいと思っている。


 朝食は私が寝床にした大木の周りに生えていたキノコだ。【獣の嗅覚】では毒かどうかは判別できないが、私には頼りになるスキルがあるから気にせずモリモリ食べる(良い子は森で取ったキノコをそのまま食べちゃいけないよ!)そして、贅沢を言えば火で焼いて食べたいところだ。


 食事を終えた私は寝床にした大木の位置を忘れないように、周囲を探索しはじめる。昨夜は暗かったので匂いだけで目視での安全確認ができていなかったので、それも併せて魔物でも狩りながら食べ物の確保をしたい。魔物を倒しても私より大きいと運べないので狩りは定期的にしなければならないだろう。


「はぁ……」


 生きていけるとは思えるようになってきたが、これからのサバイバル生活を考えると溜息がでる。火が熾せれば多少は変わってくるかもしれないが、知っているのは木をこすって火を熾す方法くらいだ。ずっとまともな食事をとっていなかった私の細腕では辛い。となるとやはり生肉でも齧って体力と力を付けるしかないだろう。


 スキルのおかげで攻撃力に不足はないが、私には物を運ぶ力も走る体力も備わっていないのである。一日三食食べて、もう少し力はつけたいところだ。


 歩いていると【獣の嗅覚】が何かの匂いを察知する。私は足音をなるべく立てないように、匂いのする方へと移動していると、茂みの向こう側に緑色で小柄な魔物が三体ウロウロとしていた。


(あれってもしかしてゴブリンってやつかな? ようやく異世界のテンプレってやつに会えた気がするよ)


 私はゴブリン(仮称)を見つけて少しズレたような感想を抱きながら、ゴブリン(仮称)を観察していく。ゴブリン(仮称)は三体とも手に木の棒を握っているので、殴られたら痛そうである。頭を殴られて気を失わなければ問題なさそうなので、私は茂みから飛び出すと一番近かったゴブリン(仮称)に【爪撃】で襲い掛かった。


「ギギィ?!」


 ゴブリン(仮称)は驚いたような声をあげて振り返るが、その時には私の爪がゴブリン(仮称)の頭をかち割っていた。そのままもう一体も仕留めると最後の一体と対峙する。最後に残ったゴブリン(仮称)は木の棒を振り回しながら、こちらに向かって来たので、木の棒を左腕で受け止めながら足を裂く。腕が痛い。


「ギャア!」


 ゴブリン(仮称)は悲鳴をあげて倒れる。私は殴られて鈍い痛みがはしる左腕を押さえながらゴブリン(仮称)に近づき、裂かれた痛みで動かないのか、投げ出されたゴブリン(仮称)の足に触れるとスキルを使用する。


「【麻痺付与】」

「ギ!?」


 私がスキルを使うとゴブリン(仮称)はビクビクと痙攣しつつも動かなくなった。どうやらただ攻撃しただけでは麻痺はしないようだ、なら【麻痺付与】を使用しながら攻撃すれば麻痺攻撃になるのだろう。とにかく触れるだけで麻痺させるような迷惑な女にならずに済んだことにホッとする私だった。


『フォレストゴブリンの魔石を確認しました。

 領域を確認、領域が不足しています』


 ゴブリン(仮称)はどうやらフォレストゴブリンと言うらしい。そしてやはり領域とやらが足りない。フォレストドッグの時のようにリンクがどうとかも聞かれなかったので、どうもリンクは一度取り込んだ魔石に限るようだ。


『ドラゴンパピーの成長を確認しました。

 スキル【竜気】が 

 使用可能になりました。』

「およ、なにやら新しいスキルをゲットしたよ?」


【竜気】竜の力を手に入れる。


 私はすぐにスキルを確認してみるが書いてあるとおりなら、なにやら凄そうなのだが、やはり説明が物足りない。


「なら試してみるしかないよね。【竜気】!」


 物は試しと私は【竜気】を使用してみると、なにやら全身に力が漲るような感覚がした。なので私は軽く手足を振るった後、近くに生える私の胴回りくらいはある木に蹴りをいれてみることにする。


ドガンッ!


 なかなかに強烈な一撃が入ったような音が響き、木には私の足が減り込んだ跡が残っていた。


「おおぅ……私ってば人外さんだよ」


 蹴りの威力に若干引き気味になりながら【竜気】を解除すると、急に疲労感が押し寄せてくる。


「うわ……身体が重たい……。私の力不足に丁度いいと思ったけど多用できなそうだなぁコレ」


 などと言いながらも、また一つ問題が解決して安堵している私だった。




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