第20話 予言者

 何となく分かっていた。


 鬼追村きおいむらの名前を聞いたときから、心の奥深いところに押し込んでいた記憶が、ひかりを支配しつつある。


 勇二はこんなことも言っていた。


「初めて上条さんを見たとき、心臓が止まるかと思いました。あまりにも似ていらっしゃるので。」


 年も同じくらい、秋子も似ている‥。と勇二に話していたようだ。その意味するところは‥。


 これでわかった。秋子は、"お使い人"がひかりの血の繋がった誰かなんじゃないか?と考えた。だから、過去に起きたことを調べようとしていた。橋本氏の事件と"お使い人"との関連も、秋子は気になっていたに違いない。


「上条さん、"お使い人"に会ってみますか?」

「え?」

「あなたもまた、彼女に興味を持っている。違いますか?」


 勇二の目が冷たさを増したような気がする。


「自分に似ている人がいる。と聞いて、興味がない人はいないと思いますが‥。」

「そうですね。」


 意地悪な聞き方をして申し訳ない。と勇二は謝り、コーヒーを飲み干した。


「会ってみたいと思います。正直な気持ちです。でもその前に、橋本代議士に会ってみたいと思っています。」


 ひかりは勇二にはきちんと想いを伝えておかなければならない気がして、そう伝えた。


「そうですか‥。橋本氏に会ってどうするのですか? "お使い人"のことを確認するつもりですか?」


 僕が嘘をついていると?という言葉が続くようだ。


「秋子も、橋本氏と会ったことがあるのか、確認したいのです。彼女も彼について調べていたかもしれないので、"お使い人"、予言者のことだけでなく、橋本氏襲撃事件のことも‥。」


 考えをまとめるように、ひかりは話す。


 橋本氏が、"お使い人"に会っているなら、ひかりの顔を見て、どう反応するかも見てみたい。


「それに‥秋子のお兄さんにも‥。」


 ひかりの言葉を遮るように勇二が言葉を重ねる。


「雛型さんにお兄さんが?」


 すごく不思議そうな顔をしている。


「ええ、秋子にはお兄さんが。」

「そうでしたか。そんな話は伺ったことがないので。」


 ひかりにも家族のことは話さなかった秋子。勇二に自分のことをいろいろ話をしたとは考えづらい。


「その人、信用できる人なんでしょうか?」


 勇二が声を落として呟いた。


「え?」


 聞き間違い?


「秋子さん、誰も信用できない。と言っていました。親友のあなたを除いて‥と。」


 何を言っているの?

 ひかりは勇二の言葉で悟のことを、なにも知らない自分に気づく。大きな平手打ちをされたような感覚が、身体に走った。


「何か気になることはありませんか?」


- そんな‥。悟さんは秋子のお兄さんであることに間違いはない‥。


 ひかりは混乱している。勇二の言葉が、悟について密かに気になっていたこと、そこに、グサッと突き刺さったのだ。


 悟はなぜ、ひかりの部屋にいたの?どうして住所がわかったの?秋子の遺留品のスマホやPCは、悟が持っていた?なぜ秋子はメッセージをスクラップブックに隠していた?そして、それをなぜ悟は持って帰ったのか‥。


 勇二とのその後の会話は、ほとんど頭に入ってこなかった。


- 悟さん…なぜ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る