第18話 「柚莉愛」
洞窟特有の水とカビが混じり合ったような匂いが、
手には、先ほど作ったサンドウィッチと、大きなカバンを抱えて。
子どもたちには近づいてはならない。と教えているこの洞窟。
ごろごろとした石が足元に転がっている。とても歩きづらい。懐中電灯で足元を照らしながら慎重に前に進む。
一本道を進んでいくと、奥の方にゆらゆらと揺れるあかりが見えてきた。それこそが、
そこに一人の女が血だらけになり横たわっている。
「
まだ息はあるようだ。
顔には複数の殴られた後があり、血がべっとりとこびりついていた。
薄着の着物を着ている様だが、腰紐は解け、太腿もあらわになっている。その太腿にも大きなあざと、無惨にも切り付けられたような跡がいくつもあり、血が乾いてミミズ腫れのようになっている。さらに、地面には黒く変色した血が点々とついており、傷の深さを思い知らされた。
「…。ひどい…。」
目を背けたくなるような光景だった。
「いつもより、ひどい…。なんて‥。」
「…うっ」
少し動かしただけで
「ごめんなさい。今すぐ手当てしますから」
血の匂いが漂ってきた。抱きかかえた
「お願い…。死なせて。」
「そんなこと、できません。
あなたのお腹にも小さな命が宿っているのだから…。という言葉は、あまりにも残酷すぎて伝えることができなかった。
そう、
いっそのこと希望通りに死を与えた方が幸せなのかもしれない。でも、未来は変えられる。
そんなある日、
怒り狂った
どんなに悔しくて、どんなに辛かったことだろう。
代々桜小路家は女系の家で、婿養子を迎えるのが常である。その中でも際立って権力を持つ
妻の
そして
「…。ごめんなさい。」
あの男は鬼だ。
そう、
そして今、
「お願いです…。楽にさせて…ください。」
腫れ上がった唇で、
「食事を…。」
きっと今の状態では口を開けることもできず、そばに湧く清らかな水すらも口にできないだろう。それでも
「では、また来ます…。」
− もう…。たくさん…。
遅かれ早かれ、
− 守らなくては。私の子どもたち…。
子どもたちのためなら、鬼にでもなれる。神からもらった贈り物など捨てても構わない。
「…。お願い。殺して…。」
−ゆるして…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます