第17話 メッセージ

 悟を見送った後、ひかりは一人パソコンの前に座っていた。色々なことが頭の中に浮かんでは消え、それらは、行き場をなくしたガラクタの様にごちゃごちゃと積み重なっていく。


 どのくらいぼーっとしていたのだろう。

 どんな時でもお腹は空くもので、ひかりも例外ではなかった。


− 悟さんには、あー言ってみたけど、何から手をつけたらいいのか…。


 とりあえず、昨日のサラダと非常食用のカップ麺で小腹を満たしながら、ノートを見返してみる。


- 中山智也とは? 

- 橋本氏との関係は?

- 予言者の存在はどこから?

- 中山智也は、会場になぜ入れたのか?

- 情報はどこから得たのか?


 ちょっと離れた場所に追加のメモを書き込む。


− 秋子は殺された?

  − 政治関係の事件? → 知られてはならない秘密?

  − 預言者の存在? → 知られてはならない?

  − 私の両親の死?


 どれも関係がありそうで、どれも関係がないものなのかもしれない…。人を殺さなければならない秘密って、何?


「まったく、わからない…。」 


 ひかりは頭を抱えた。その時…。


「あ…。」


 秋子のメモリチップのことを思い出した。このことは、悟にも誰にも話をしていない。悟と一緒に見ようと思っていたが、すっかり忘れていたのだ。


− 確認してみよう。何かがあるはず。


 メモリをPCにセット。PC本体がメモリを認識し、ディスプレイ上にフォルダが表示される。

 見るのが怖い。どのフォルダよりも大きく見える気がする。そんなはずは決してないのだが…。


 ひかりは覚悟を決めて、フォルダをダブルクリックした。


 カチカチっ。


 また新たな画面が表示され、そこには日付らしきファイル名がつけられたもの、さらにいくつかのフォルダが保存されていた。秋子っぽい。整理整頓されてる。


 ここ1年近くのものがあるようだ。最新は、秋子が亡くなる1週間前の日付。


「これって…。」


 最新のファイルをクリックしてみる。ビュオンと音がして、ファイルが画面いっぱいに開いた。


『8月13日

 橋本 龍一氏襲撃事件について調べる。(継続)

 月に一度、山梨のある団体と接触していることが判明。団体については噂の預言者と思われる。定期的に会っているようだ。』


− 秋子の取材メモと日記。


 人の秘密を覗き見ているような気がして、少し罪悪感を感じる。これは悟と確認したほうがいいのかもしれない。と思った時、フォルダの中に"hikari"というファイルを見つけた。


 作成日付は、同じ日。8月13日になっている。


『ひかりへ


 本当は、会って話がしたかったけど、いつ会えるかわからないし、メールを送りたいけど、なんだかここ圏外っぽいし、忘れそうだから、とりあえず今わかっていることを残しておくね。


 ひかりは 鬼追村きおいむらって知ってる?


 山梨の山の奥にある村だけど、Google先生も知らないみたい。それか意図的に隠されているかどうかは、わからない。


 その鬼追村きおいむらに、預言者という人が住んでいるらしいの。橋本氏の事件の件で浮かんだことだから、多分間違いはないと思う。噂にもなっていたよね。


 この前そこに行ってみたの。

 山奥で、道路も舗装されてなくて。でも確かにそこに人が住んでた。

 そして、ひかりにそっくりな人を見かけたの。


 声をかけてみようかと思ったんだけど、取り巻きみたいな人たちに見つかっちゃって、何もできなかったんだけど、ひかりのそっくりさんが確かにいたの。


 この団体のことをもう少し調べみようと思ってる。ひかりの親戚か兄弟か何かかもしれないじゃない?年齢も同じくらいに見えたし。


 じゃ、また会った時に話すね。』


 ここで秋子のメッセージは終わっていた。

 山梨にいた時に書いた物だろうか。団体に興味を持ったのは、私に似ている人物がいたから…。


 重たい空気が体全体にのしかかってきて、潰されそうだ。

 それにしても…なぜスクラップに挟んでおいたのだろう。


 他のファイルもポチポチクリックしてみるが、決定的な情報、知られては困るような情報は何1つ見つけられなかった。


鬼追村きおいむら…。」


 どこかで聞いたような気がす。遠い昔話に出てきたのだろうか。

 ひかりは、検索してみる。”鬼追村きおいむら"


 鬼追さんという苗字についてと、焼酎の記事。村についての記事は見当たらない。


 "昔話 鬼追"


 結果は同じ。


 この団体については、悟が調べてくれることになっている。気になるけど、約束通り、橋本氏についてまとめておくことに、意識を切り替えよう。

 それでも頭の片隅に、こびり付く違和感。


− ねぇ、ひーちゃん。


− 私たちずーっと一緒だよ。 ずーっと。


 霧のかかった心の奥底の記憶が甦ろうとしている。

 子どものころ、そんな風に呼ばれていた‥気がする。

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