第14話「咲夜胡」
昔々のこと。
まだこの村が神々をお守りし、
月に一度だけ会うことが許されている
その
「
「聞かせてー。」
二人の少女にねだられて、うんうん。と老婆はうなずいた。
「そうだなー、お前たちもそろそろ知ってもいい頃合いじゃろう‥。
今日は特別にこの話をしようかの‥。」
老婆は丸まった背を少しただして話始めた。
「まだこの村が神々をお守りし、|神守村≪かみもりむら≫と呼ばれていた頃、ここ桜小路家は村を代表して代々神様をお守りしてきたんじゃ。これはもう知っているね。 中には、神に愛され神の声を聞く子どもが、桜小路家には誕生することがあったんじゃよ。」
「
「サクヤコさま?」
二人の少女にとって初めて聞く名前だった。
「そう、
ふっと優しい風が部屋の中に流れ、桜の花びらが一枚‥
まるで桜も、
***
全ての人から神の申し子として崇められ、人との関わりもごく一部の者とのみ、限られた空間で神と会話することだけを期待された少女だった。
それでも少女は幸せだった。
庭に現れる鳥や動物たちが遊び相手であり、唯一心から安心して語り合える友だった。
少女には不思議な力が宿っていた。周りの大人たちの未来が見えた。見えたというよりもう一人の自分が現れ、今目の前にいる人物について語り始める。悲しいことも、嬉しいことも淡々と語り始めるのだった。
いつ頃か、少女はこの不思議な現象は自分だけに起こっていることを知り、周りの大人たちは、少女のことを”神から愛された宝”だと言うようになった。
最初は大人たちが驚き、喜ぶ顔を見るのが嬉しかった。でも‥ある日を境に、少女は見たこと全てを語ることをやめた。
それは‥何がきっかけだったのかはわからない。
最愛の母の死が関係しているのかもしれない‥。それ以来少女は独り桜の見えるこの場所で、ひっそりと過ごすことを選んだ。
ますます
桜が満開の頃、
桜の花びらがフワッと舞ったかと思ったその時、その青年は現れたのだ。
「君は‥誰?」
「あなたこそ‥どなたです?」
白いシャツに黒いズボン。手には箒を持っている。
新しい庭師なのだろう‥。
「あ‥。」
青年は主人の言いつけを思い出した。離れには近づかないこと。掃除は表のみ、決して立ち入ることなかれ。
「申し訳ございません。あまりにも立派な桜だったので‥。」
青年は罰の悪そうに深々と帽子をかぶり、失礼します。と軽く会釈をし、その場を立ち去ろうとした。
「待ってください。桜も喜んでいます。是非ゆっくりと見てあげてくださいませ。」
白い着物を来た
その一つ一つの所作が、高貴な印象を、神に愛されし者を象徴するように神々しい。
艶やかな赤い唇で、
「質問にお答えしていませんでしたね。私‥
「あ、‥。小生は‥、ひ、ひ、
青年の顔は真っ赤だ。すぐにでも立ち去りたい気持ちと、もう少し一緒にいられたら‥という気持ちが入り混ざる。
くすっ。
「この子たちも、真悟様が気に入ったと申してますわ。」
***
トントン。
「失礼します。」
障子がスーッと開く音が聞こえた。
「あ、お母様!」
少女たちの顔がパッと明るくなった。
「そろそろお時間ですよ。|紅夜≪べによ≫様もお疲れでしょうから、お部屋に戻りましょうね。」
「えー。まだお話の途中なのよー。」
少女たちは駄々をこねる。
「|紅夜≪べによ≫様、申し訳ございません。お疲れでしょう。そろそろ失礼いたしますね。」
「いいて、いいて…。たまに会えるのも嬉しいものじゃよ。
|紅夜≪べによ≫が優しく
「お久しぶりです。|紅夜≪べによ≫様。お変わりありませんか?子どもたちがご迷惑おかけしてなければいいのですが…。」
「構わんよ。今日は
ぽんぽんっと、|紅夜≪べによ≫が
「サクヤコ様のお話を聞いていたのー。とても素敵なお話〜。あの桜の下で王子様に会ったのよー。」
少女たちは興奮気味に
「そう、よかったわねー。」
「
二人の少女は素直に頷いた。
「|紅夜≪べによ≫様…。」
「わかっておる、わかっておる。心配せんでも、未来はきっと変えられる。あの子たちが光じゃ。」
|紅夜≪べによ≫は静かに目を閉じる。祈りを捧げるように。
この村が ”
「
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