第9話 噂

 秋子の葬儀は無事終わり、ひかりの毎日は平常に戻った。


 悟とは、秋子の死について真相を明らかにする。と言う同じ目的を持つ同士となった。

 そんなひかりは、心に空いた穴を真実というマテリアルで埋めようと、毎日を過ごしていた。


「ひかりさんは、秋子が当時どこに取材に行ったのか、何を調べていたのか、調べていただけますか?」

「悟さんは?」

「俺は、この写真の場所がどこか、調べてみます。特徴のある木々であれば、ある程度場所を絞れると思うから」


 あれから何日過ぎたのか‥。


 何から手をつけようか考えていたある日、意外と早くそのチャンスがやってきた。お昼時、秋子の部署の女子たちが、興味津々で話しているのを聞いたのだ。


「雛型さん、事故で亡くなったんだよねー。」

「そうそう、先輩がお通夜に行ったって言ってた‥。若いのにね‥。」


 サラダを頬張りながら、少しポッチャリした女子が続けた。


「この前、お兄さんと言う人が、最後に雛型さんが訪れた場所について問い合わせしてきたみたいよ。」


 へぇ~と、周りの女子たちも興味津々に話の続きを促す。


「事故じゃないと考えてるみたいねー。」

「そうなんだー。でも身内ならその気持ちわかるなー。」

 

 お弁当のウインナーを、口に運びながらメガネをかけている女子が答える。


「で、なんて答えたの?」


 サラダのポッチャリ女子が、全て知っているかのような神妙な面持ちで、ここだけの話だけどね。と会話を続ける。


「わからないって会社は答えたみたい。そりゃそうだよねー。会社の指示で、あんな死にかたされたら、訴えられかねないしねー。」


 サラダのポッチャリ女子が、前屈みになり他の女子に顔を近づける。ここからが本題。


「でもー、私聞いちゃったんだよねー。」

「何を?何を?」


 皆、食べる手を止めてサラダのポッチャリ女子が、話すのを待っている。


「なんかねー。ちょっと前に偉い政治家さんの暗殺未遂事件あったじゃない?」


 そこで一息つく。早く続きを話して欲しいと、女子たちはサラダのポッチャリ女子に、さらに顔を寄せる。


「あの事件を、事前に予知した人がいるんだって。それで助言をしたことで未遂に終わったらしいんだけど、それが、真実なのか、犯人と繋がってるのか調べてたみたい。」

「それって警察の仕事でしょ?どうしてうちが?」


 メガネ女子が、嘘でしょ?という感じでお弁当に興味を戻した。


 サラダのポッチャリ女子は、負けづと続ける。


「だから変なんじゃない?警察はその事実は、なかったことにしてる。何か裏があるんじゃない?って思ったんでしょうねー。」


 話はこれで終わりというようにサラダを口に頬張る。


「もし何かがあるんだったら、そんな危険な調べもの、させないでしょ?」


 まだ駆け出しなんだし‥。とメガネ女子が言う。


「そう、そうなんだよ。だから、ただ会社としては、予言者の存在を確認させただけだったみたい。そんな話をしてたよ。なんかさーヤバい集団だったんじゃない?その予言者。もう、オカルトの世界だよねー。本当かどうかわかんないけど。」

「予言者か~本当にいるなら、会ってみたいけどねー。」

「顔見たら殺されるとかかもよ。」


 えー。コロコロと笑いながら違う話を始めた。もう秋子の事は忘れたようだ‥。


 後ろの席に座っていたひかりは、怒りがわいてきた。他人事で、自分達には関係ない世界の話。悪気がないのはわかる‥。でも笑いながら話して欲しくない。

 やり場のない怒りを必死で堪える。


- 予言者か‥。調べて見るか‥。


 場所については語られなかった。でもヒントはそこにある。ひかりは確信していた。あの写真の人物が予言者なのかも‥。それとも何かの関係者?

 とりあえず調べてみよう。


 秋子の使っていたパソコンが見れたら‥。

 落ち着いて、今それはどこにある?


 秋子の机の上には花が飾られていた。

 パソコンは‥? さっき秋子のデスクのあるエリアを見にったけれど…なかったと、言うことは?


「今日、雛型さんの私物を親族に返すって~後で手伝わないと。」


 さっきのサラダのポッチャリ女子が、めんどくさそうに話しているのが聞こえた。


- もう一度調べてみよう。秋子が、何か残してるかもしれない‥。秋子の部署の人がそれを見つけてる可能性もあるけど‥。


 とりあえず、自分が荷物を受け取れたら。そうすれば悟にも渡すことができる。

ひかりは昼食代わりのプロテイン入りドリンクを一気に飲み干し、席をたった。

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