第15話
「…誰から貰ったん?」
「履修科目が一緒の子…。その…告白されて、もちろん断ったんやけど!これだけは貰って欲しいって…断れんくて…」
しどろもどろになりながらも説明をする詩帆。
そういう優しいところが好きだと思いながらも、それが自分以外の他人に向けられていることに雫は僅かな苛立ちを覚えた。
詩帆のことを好きになるのもわかる。彼女は魅力的な人だ。だから雫も好きになった。だが思いを伝えることも、詩帆がその相手に優しさを向けることも許せなかった。
「そんなん…捨ててしまえばええやん…。」
そう、口に出してしまった。
もちろん詩帆がそんなことできるような人じゃないことは重々承知している。
「それは…できへんよ…。せっかくくれたもんやし…。」
しかし詩帆のその返答が雫を更に苛立たせる。
「詩帆ちゃんは…うちより今日告白してくれた人の方が大事なん?」
「そんなん!雫ちゃんの方が大事に決まってるよ!」
間髪入れずに返事をする詩帆に、雫は何も言い返せなくなった。
沈黙が降りる。
「…」
「…」
二人でただそこに立ち尽くしていた。
雫は本当はそんなもの捨てて欲しいと言いたかった。でも、わがままを言いたい気持ちとわがままを言ってもその通りにしてくれない優しい詩帆が好きだと思う気持ちで頭の中がグルグルしていた。
詩帆はバレンタインを他の人から受け取ってることに雫が嫌な気持ちになっていることを気づきながらも、その事になんと言っていいかがわからなかった。だたひとつ明確に言えることは、誰よりも雫のことが大事だということだった。
先に沈黙を破ったのは詩帆だった。
「…他の人からのバレンタイン、受け取っちゃってごめんね。でも、私が一番大切なのは、雫ちゃんやから。貰ったものを捨てることはできんけど…雫ちゃんが嫌なら返してくるよ。」
それを聞いた雫は、バレンタインチョコの存在よりも詩帆がその人に会いに行く方が嫌だと感じた。
「返しに行かんでええよ。なんか…そっちの方が嫌や…。でも詩帆ちゃん一人に食べて欲しくもないから、うちも一緒に食べてもいい?」
「それはもちろんええよ!一緒に食べよ〜。」
不安そうに問いかけた雫に、詩帆は折衷案が見つかった事が嬉しくて笑顔で返した。その笑顔を見て雫もつられて笑顔になる。
「近くに公園あるからそこで食べよう。時間大丈夫?」
「うん、大丈夫やよ。行こう。」
二人で公園のベンチに座った。
詩帆は先に雫がくれたチョコレートを開けた。
「これ…手作り?」
「うん…簡単のやけど…。」
箱の中にはチョコレートマフィンとトリュフチョコレートが入っていた。
「美味しそう!食べていい?」
「う、うん…。」
嬉しそうな詩帆を雫は緊張した面持ちで見つめていた。
詩帆はトリュフチョコレートをつまみ上げ、口に運んだ。
「甘くて美味しい〜!こっち食べてみよ。」
詩帆はマフィンを手に取り、カップを外してマフィンを頬張った。
「こっちは甘さ控えめなんやね!美味しい〜!」
美味しそうに嬉しそうにする詩帆に雫は安堵した。
「よかったぁ。」
本当は、手作りチョコを渡すことにとても緊張していたのだ。
その後は、もう一つのチョコの方も雫と一緒に食べた。
「雫ちゃんが作ってくれた方が美味しいね。」
なんて詩帆はニコニコと雫に言った。
そして「口直し〜。」と言いながら雫がくれたチョコを口に運ぶ。
雫は詩帆が気を使ってくれていることも、それ以上に喜んでくれていることも嬉しかった。
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