第16話

ある夜、詩帆はふと思った。

自分でさえバレンタインに告白されたのだから、美人な雫は男女問わずもっと告白されているのではないかと。

詩帆自体はそんなに告白をされるという経験が豊富なわけでもない。

でも、雫は違う。

同じ高校に通っていた時期もよく呼び出され、告白されているような様子はあった。

「今も…告白よくされるのかな…。」

詩帆はぽつりと呟いた。

呟いた瞬間、不安が襲いかかってくる。

告白された中にもっといい人がいたら…男性に告白されて男性の方がいいってなったら…。

そんな不安がふつふつと湧き上がってきた。

「私でいいのかな…。」

不安な気持ちから、そんな言葉を吐き出した。

雫にとっては、もしかしたら、男性の方がいいんじゃないか。そんな不安な気持ちがよぎる。

しばらく不安な気持ちで塞ぎ込んでいたが、そもそも告白されてるかわかんないとふと思い立った。

とは言っても、他の人から告白よくされる?なんて聞いていいものかも分からない。

それでも、どうしても気になってしまう。

告白されてないなら、それはそれでいい。

不安も少し落ち着くというものだ。

でも告白されているなら…考えただけでも様々な不安がよぎる。

詩帆は勇気を振り絞って雫に聞いてみることにした。

『雫ちゃん、ちょっと…変なこと聞いていい?』

『なあに?』

雫の返信は早かった。

詩帆はドギマギさせながら文章を打つ。

『私、この前告白されたやんか。その…雫ちゃんも他の人から告白されたりするんかなと思って…。』

『うん、されるよ。』

返事はあっさりと返ってきた。

やはり、されるらしい。

『男の人?女の人?』

『どっちもだけど…男の人が多いかな。』

そういう言い方をするということは、一人や二人ではないのだろう。

幾人もの人に雫は告白されているということだ。

詩帆はそう思った。

そこから返信が途切れたことを雫は怪訝に思った。

そしてメッセージを打つ。

『詩帆ちゃんどうしたん?なんでそんなこと聞くん?』

詩帆は迷った。

不安を素直に打ち明けるべきだろうか。

私でいいのかって、男性の方がいいんじゃないかって、雫に聞くべきだろうか。

悩んでいる間に、雫からの追撃が来た。

『詩帆ちゃん?大丈夫?何か悩んでるなら言ってや。』

こういう時、雫の察しの良さに詩帆は救われる。

その言葉一つで不安な気持ちを吐露しやすくなるのだ。

詩帆はもう一度勇気を振り絞って、不安を打ち明けてみることにした。

『私でいいんかなって思って…。雫ちゃんはモテるやろうから、いっぱい告白されるやろ?男性の方がいいとかってなるんちゃうかなと思って…。』

『うちは詩帆ちゃんがいいんよ。詩帆ちゃんが大好きなんよ。そんな悲しいこと言っちゃいや。』

雫は長く間を開けることなくその返信を返した。

その事が雫が本心から言っているのだと詩帆に感じさせた。

『ありがとう。ごめんね。』

『謝らんでいいよ。遠距離やし、不安になることもあるやんね。でも忘れないで。うちは詩帆ちゃんのこと、ほんとに大好きやから。』

雫の返信は優しさで満ち溢れていた。

『うん、ありがとう。私も雫ちゃん大好きやよ。』

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