第5話

「最近カップル増えたなぁ」

大学構内を一緒に歩きながら友人が言った。

「こないだ文化祭があったからやない?」

もう一人の友人が答えた。

確かに、見渡せば恋人ばかりのような気もすると詩帆は思った。

「なんで文化祭やと恋人が増えるん?」

詩帆は友人たちに素朴な疑問を投げかけた。

「うーん…雰囲気的に盛り上がるし、チャンスや!って思うんやないかなぁ?」

友人もなんとなくな感じで答える。

「でもいいなぁ、恋人。うちも彼氏欲しいわぁ。」

もう一人の友人がぼやいて言った。

「そもそも好きな人おるん?」

「おらん!」

詩帆の問いかけに友人は明るく答えた。

「好きな人もおらんのに彼氏は無理やわ。」

詩帆が呆れたように返す。

すると、友人は反発するかのように詩帆に問い掛けた。

「そういう詩帆は好きな人おるん?」

突っかかるように言われ、詩帆は戸惑った。

「好きな人…」

詩帆は迷った。雫のことを言うべきだろうか。

実は最近付き合い始めたのだと。

だが同時に雫と付き合ってることは人に話したら反対されるだろうかと不安になった。

それは嫌だった。

詩帆にとって雫は変え難い大切な人で大好きだから、誰にも雫とのことを否定されたくなかった。

少し迷って、詩帆は口を開いた。

「好きな人は、いないよ。」

「本当に~?少し間があった気がするんやけど?」

「いないいない!本当だよ!」

勘ぐってくる友人に対し、詩帆はキッパリと否定した。

雫のことを話したい気持ちよりも、雫のことを否定されたくないという気持ちが勝ってしまった。

「そっかぁ~。詩帆もおらんのかぁ。」

「こりゃ三人ともしばらく彼氏できることはなさそうだね。」

隣で言い合いを聞いていた友人がおどけるようにそう言った。

「そうだね~。」

その友人の言葉に詩帆も笑って返事をした。

その心には複雑な気持ちを抱えながら。

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