第4話

「聞いてよ!こないだ彼氏がね、」

次の単位の教室へ移動しようとしていると、友人が藪から棒に雫に話しかけてきた。

「私の妹の引越し手伝うって言ってくれてさ。そんなんいいよって断ったんだけどね?そしたらさ、結婚するってなったらいずれ会うんだからとか言うの!平然と言うからなんだか恥ずかしくなっちゃってさ~。もうびっくりしちゃうよね!当たり前に結婚を見据えてくれてて…嬉しいんだけど反応に困っちゃった。男の人ってみんなそうなのかな~?」

「どうなんやろうね。」

こういう時はなにか意見が欲しいというより話を聞いて欲しいものだと思いながら雫は返事をした。

「ね~。付き合って数ヶ月だけど、同棲したいねって話も出ててさ。結婚前提で考えてるのかなぁとか、まだ早いかなぁとか思いながらついつい浮かれちゃって…いっぱい一緒に入れると思うとやっぱり嬉しいよね~。」

「そうやね~。」

友人の話を聞きながら、雫は詩帆のことを思い出していた。

そして、詩帆がどれだけ素敵な人で、どれだけ大好きで、ずっと一緒にいたいと思っているか話したくてたまらなくなった。

「雫は今彼氏いないんだっけ?」

「そうやね。」

彼氏はいない。嘘はついていない。

詩帆ちゃんという彼女がいて…と話したいのをグッと堪える。

「雫が彼氏いた時もやっぱずっと一緒にいたいって思ってた?」

「そうやね~。ずっと一緒にいたいって思うなぁ。」

言外に詩帆ちゃんと、と添える。

「そうだよね~!こないだショッピングに一緒に行ってね、家具とかも見たの!一緒に住んだら、こういう家具いいかもね~なんて話してさ~!」

嬉しそうに友人は彼氏自慢を続ける。

それを聞きながら、雫は詩帆のことを自慢したい気持ちをグッと堪えて聞いていた。

みんな当たり前に〈彼氏〉のことを話す。

でも雫にとっては、詩帆が唯一無二の存在で恋人だ。他の彼氏なんて有り得ない。

それでも、当たり前に〈彼氏〉を連想する人達にとっては雫が詩帆を好きなことは異様に映るだろう。

もしかしたら、同性同士でなんておかしいなどと言われるかもしれない。

それが雫には想像するだけでも耐えがたかった。

詩帆のことも、詩帆との関係も、詩帆への気持ちも、誰にも否定されたくなかった。

それらは、雫にとって変え難い大切なものだからだ。

詩帆自身の事や詩帆との事を否定されるくらいなら話したくなかった。

その気持ちは、詩帆のことを自慢したいのと同じくらい大きく確かな気持ちだった。

それだけ、詩帆のことを大切に思っていた。

「あ、私こっちだった!じゃあね!」

ひとしきり話終えると、友人は別方向へと去っていった。

友人に笑顔で手を振る。

「じゃあね。」

「はーあ。詩帆ちゃんに会いたいなぁ。」

去っていく友人を見送りながら、雫はぽつりと呟いた。

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