第12話

年末。

この稼ぎ時に二人はバイト三昧だ。

次に会える時のために資金を蓄えるため、二人はそれぞれの場所でバリバリと働いていた。

そんな大晦日。

雫は一人暮らしの部屋で、詩帆は実家で家族と過ごしていた。

『もう大晦日やねぇ。』

『一年あっという間やねぇ。』

大晦日でも、いつもと変わらずメッセージを送り合う。

いつもと違うのは、大晦日ということもあって日をまたぐまでメッセージのやり取りをできることだ。

『年末忙しかった?』

『忙しかったよ〜!今日もクタクタ!』

そんな何気ないメッセージのやり取りをしながら雫は身支度を始める。

年明け早々、初詣にゼミのみんなと行く予定なのだ。

年を越す10分前に近所の神社にゼミのみんなと集合した。

「おつかれ〜。」

「お疲れ様です。」

お互いに声を掛け合い集合する。

みんなとワイワイ喋りながら、初詣をするべく長蛇の列に並んだ。

有名な神社ではないが、それでもすごい人混みだった。

この新年のタイミングで人がたくさん来るのを狙って屋台なども出ているからかもしれない。

みんなといながらも雫は合間合間に詩帆に返信をする。

それでも詩帆は、なんとなく返信が遅いような気がした。

『雫ちゃん、なんかもしかして忙しい?』

『ううん、忙しくはないよ。ゼミのみんなと初詣に来てるから、それでちょっと返信遅くなってるかも。ごめんね。』

『雫ちゃんと初詣か…いいなぁ…。』

こんな時、詩帆は雫にいつでも会える人が羨ましくなる。

〈ゼミのみんな〉と言うが、その中に男性もいるのだろうか。容姿端麗な雫のことだ、同性すら魅了しているかもしれない。

そう思うとなんとも言えないモヤモヤした気持ちになってきた。

雫からの返信はまだ来ない。

その事が一層モヤモヤさせる。

一方その頃、雫はゼミの仲間に誘われ、甘酒を手に取っていた。

「寒いよね〜。」

「甘酒あったかーい!」

そんな風に話しながら甘酒を口に含む。

ほんのり甘い温かさが全身を包み込むようだ。

甘酒のおかげで温まった手で、ポケットからスマートフォンを出し、詩帆からのメッセージを確認する。

羨むようなメッセージに、心の中では私も詩帆ちゃんと来たかった!と思うが、それでは不安にさせるだけかもしれない。

『私も詩帆ちゃんと行きたいな。今はまだ無理やけど、いつか一緒に行こうな。』

今はそう伝えることが精一杯だ。

遅い返信に、きっと楽しんでいるのだろうと詩帆はモヤモヤとした気持ちを抱えていた。

雫と初詣に行ける人達が羨ましい気持ちと、メッセージのやり取りが楽しい時間の邪魔になっているのではないかという気持ちと、それでもメッセージのやり取りを続けていたい気持ちと…色んな気持ちがごちゃ混ぜになっていた。

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