第2話
中学生の頃も、高校生の頃も、幼馴染の雫はクラスの中心にいるような美人だった。
むしろ美人なことは大学生になって一層磨きがかかったかもしれない。
しかしメイクを覚える以前から、雫は人目を引くような綺麗な容姿をしていて、いつでも人の輪の中心にいるような人物だった。
一方詩帆は、どちらかというと地味な部類で友達もそんなに多くはなかった。
雫と同じクラスになることも数度あったが、一日に数度話す程度だった。
詩帆にとって雫は、遠い存在だった。
そんな二人の共通点が一つだけあった。
それは、読書だった。
共通の趣味である読書の話をするため、雫は時折人の輪から外れて詩帆に話しかけていた。
「詩帆ちゃん!この間教えてくれた本ね、すっごく面白かったわ!」
雫はテンションが上がった様子で嬉しそうに詩帆に話しかけた。
「もう読み終わったん?早いなぁ。」
詩帆は驚いて雫に答えた。
雫が面白いといったその本を紹介したのは一昨日の話だ。
「詩帆ちゃんが面白そうに話してくれるから、早く読みたくて仕方なかってん!読んだらもう止まらんくて一気に読んでしまったわ!」
「そうなんや。どこが面白かった?私は、主人公が冒険に出た最初に街での出来事が一番面白かったなぁ。」
「そこも面白いやんな!うちは、主人公が冒険で出会った人を守ってそのまま仲間になるところがぐっときたなぁ!」
「そこもいいところやなぁ。」
そう言って、詩帆が雫に紹介した本の感想を言い合う。
たまに会話するこの時間が二人は好きだった。
詩帆はこの瞬間だけは雫が遠い存在ではなく共通の趣味を持つ友人のように思えていた。
「なあ、詩帆ちゃん。他にもお勧めの本ある?詩帆ちゃんがお勧めの本また読みたいわぁ。」
「そうやなぁ…。それやったら、こないだ読んだ本もお勧めやで。」
「どの本?」
「『月の旅』って本やねんけどな、これも主人公が旅をする話やねん。」
「へ~!面白そうやね!」
「シリーズ物やから、全部読むにはちょっと時間かかるかもしれへんけどね。」
「詩帆ちゃんがお勧めしてくれた本やもん!読むよ!」
「ねえねえ、雫ちゃ~ん」
会話を楽しんでいると折がいいところでクラスの他の子から雫に声がかかった。
「あ。ごめん、呼ばれたから行ってくるね。」
「うん。」
詩帆はほんの少し寂しいような気持ちに駆られた。
雫も名残惜しそうに言葉を続ける。
「面白い本、教えてくれてありがとうね。また感想話すわ。」
そう告げると、呼ばれたクラスメイトの方へと雫は向かっていった。
そのクラスメイトは、詩帆とはあまり話したことがない。
友人の多い雫はクラスメイトとニコニコと話している。
間もなく雫の周りに人が集まり始めた。
その様子を見ながら、詩帆はまた雫が遠い存在のように感じていた。
―――時計をぼんやりと見つめながら、高校時代のことを思い返していた。
そんな風に雫は遠い存在だったなぁと思い返していた。
それが、昨日で一変したのだ。
恋人になったのだ。
それはもう、信じがたいことだった。
「詩帆~。ご飯よ~。」
ぼんやりとしていると、お母さんから声がかかった。
「は~い。」
気持ちを切り替えて詩帆は一階のリビングへと下りて行った。
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