第1話

それから、雫は東京へと帰っていった。

詩帆は、別れ間際の雫のことを思い出していた。


「詩帆ちゃん、毎日連絡しよな。離れてても、気持ちはほんとやから。」

名残惜しそうにそう告げる雫に、詩帆はただ頷くことしかできなかった。

口を開くと寂しさがあふれて、行かないでと言ってしまいそうだった。

だけど、それを言うわけにはいかない。

雫には雫の東京での生活があるのだから。

お互いにそれぞれの大学で、それぞれ勉強に励む。

そしていつか社会人になったら、一緒にいられるようになるかもしれない。

そんなまだ見ぬ未来を今は信じることしかできない。

「詩帆ちゃん…なんでなんも言ってくれへんの?うちもう行かんと…」

雫が悲しそうに詩帆を見つめる。

その表情にたまらず、雫をぎゅっと抱きしめた。

「し、詩帆ちゃん!?人が見とるよ~」

驚いて恥ずかしそうに言っているが、どこか嬉しそうな様子を声に滲ませている。

行かないでと言いたい気持ちをぐっとこらえて、詩帆は声を絞り出した。

「気を付けて、な。」

抱きしめていた腕を離すと、雫は名残惜しそうだった。

しかし、もう帰りの時間が迫っている。

そろそろ飛行機の搭乗口に向かわなければならない。

「うん。着いたらすぐ連絡するな。」

そう言って、名残惜しそうに立ち去ろうとして、雫は何度も何度も振り返った。

その姿を詩帆も名残惜しく感じながら見つめていた。


それから、まだ連絡は来ない。

さっき別れたばかりなのだからそれもそうだ。

「こっから東京って、飛行機でも一時間はかかるんかぁ…。」

ぼんやりと時計を見つめる。

昨日、見つめ合って、想いを伝えあったのが夢のようだった。

「私、ほんまにあの雫ちゃんと付き合ってるんやろうか…。」

信じがたいことだと思った。

中学生や高校生の頃、遠い憧れの存在だったような雫が好きだというのだから。

幼馴染という接点がなければ、もう二度と関わることもなかったかもしれない。

私はそのまま、ぼんやりと昔のことを思い返していた。

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