第3話 「あれ?私と貴女方の温度差えぐいて」

あの誕生日の日のことを、私は勝手に「楓さん泥酔事件」と呼んでいる。

あれから何度か飲みに行ったが本人はケロッとしていつもと変わらぬ様子で、周りの人も酔っ払いの奇行には慣れているのでちょっとした話題で上がるだけで特に特別な展開は無い。

あの瞬間の冷静な自分ナイス。きっと浮かれて真面目に返事してたら末代まで語られてもいい事件となってたに違いない。

そんなことを思いながらタクシーから降り、行きつけの店に入る。


「おつかれ!やっと来たなー」


24時の少し前に顔を出すと、顔見知りたちが既に揃っていてあちらこちらから声がかかる。

今日は私にとってこの店での初めてのイベントが待ってるのだ。

いつものカウンターには行かず、飲み友達に手招かれボックス席へ。

わちゃわちゃしながらおしゃべりしてると、店の照明がすっと暗くなり


「Happybirthday!!!」


いっせいに周りの人が祝いの言葉を私にくれた。そう、今日は私の誕生日なのだ。

飲み友が企画したこのイベントに店側も乗って誕生日パーティを開いてくれ、オマケにシャンパンまで頂いてしまった。

すごく嬉しくて、でもちょっと照れくさい。

皆でシャンパンを飲み、いつの間にか用意されてたケーキも食べて全員が落ち着いてきた時に今日は不意打ちの爆弾が私に投下された。


「なぁ〇〇、俺まだこの前の返事聞いてないな?」


隣に陣取ってた楓さんがおもむろにそう口にしたのだ。

ボックス席は一瞬音がなくなり静けさに包まれたが、そんなの一瞬で次の瞬間には今日一の騒ぎに発展。

「あの時の告白まじだったのか!」とか

「てか、やっとか!!!」とか

驚きの言葉はあったが否定の言葉などのマイナスな意見が一切ないことに私はびっくり。

なんでも、楓さんが私にゾッコンなのは店にいる常連と店員達は把握済みで、いつ私とくっつくのかと楓さんが休みで私が飲みに来てない日の話題はもっぱらその事ばかりだったらしい。

なにそれ私知らない。

前回のことは酔った勢いの事だと思ってたので、まさかこんなことになるとは思わなかったため私はフリーズ。

楓さんはぎゅっと私の手を握りこてりと首を傾げて返事待ち。

店員たちは手が空いてるものが携帯の動画で撮影し見守り態勢。

飲み友達は当人達よりも盛り上がり店の温度が少し上がったような錯覚さえする。


唖然と正面を見てた私は意見を求めて左右を見るが友はあてにならなそう。

助けを求め後方の店員に目を向ければ撮影中にて無理そう。

えっ、困ってるのわたしだけ?

何故こうなった。

てか、あれ?私と貴女方の温度差えぐいて。

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