第7話
「おっきいねー」ライが山に現れた魔神を見上げて、「バナナ何個分かな?」
「バナナで例えないといけないか?」
「別に」
「だったら、約20メートルと言ったところか」
「へぇ……それはバナナ何個分くらい?」
「……20個だ」
「ほーん……大きいバナナだねぇ……」
この計算では、バナナ1つが1メートルあることになってしまう。旅人のテールでも、そこまで大きなバナナは見たことがなかった。要するに、会話が面倒になって適当に返答したのだ。
魔神は村に向かって一歩踏み出す。その振動で地面が揺れ、またも大きな地震のような振動が起きた。
「気になっていたんだが……」テールが言う。「どうして魔神の封印が解けたんだ?」
「さぁ? 年月が経ってるから、劣化したんじゃない?」
「なるほどな……」
「うん。それにしても……」ライは魔神を見上げて、「あんまり強くなさそうだなぁ……」
「そうか?」
テールも魔神を見上げる。
魔神は巨体であった。手と足はあるが人には見えない。縦にも横にも大きく、あの巨体が村を襲えば、大きな被害が出るだろう。
それを見て、ライは『あまり強くなさそう』だと言い切った。退屈そうな顔で、そう断言した。
「さっさと倒して、テルとやろっと」
「……テールだ」
この訂正に意味がないことを、テールは薄々感じ始めていた。
「さて……」テールは魔神を見て、「さっさと片付けるか」
「おうよ。終わったら私と戦ってね」
「……いいだろう」
「わーい」
適当な喜び方だった。少なくともテールにはそう思えた。
そんな緊張感のない会話をしているうちに、魔神が村に近づいていく。
そして、ライとテールの眼の前までやってきた。
「私たちに気づいてるかな?」
「さぁな……」
テールが言った瞬間、魔神が動く。右腕を天高く振り上げて、そのままテールたちに向かって振り下ろす。
「気づいていたみたいだな」
「そうだね」
言いながら、ライは魔神の腕を避けようとバックステップをした。
しかし、テールはその場から動かない。
「ちょっと、危ないよ?」
ライの忠告を無視して、テールは刀を構えた。
刀を抜いたわけではない。刀身を鞘に収めたまま、振りかぶる。
そして魔神の腕に、刀を叩きつけた。
轟音。そして振動。地面が割れるような揺れが響いて、ライが尻餅をつく。
そして、目の前の光景を見てつぶやいた。
「わぁ……すっごい……」
ライが見たのは、魔神の腕が粉々に破壊される瞬間だった。
テールが振った刀を食らった魔神の腕が吹き飛ばされて、空中に散ったのだった。
数十倍はある体格差。しかし力ではテールのほうが上なようであった。
「……ライの言う通り、あまり強くなさそうだな」
しかもそんな軽口を叩く余裕まであるようだ。しかも明らかにテールは全力ではない。
腕を吹き飛ばされた魔神は大きなうめき声を上げる。それだけで大地が揺れて、魔神の怒りがライに伝わってきた。
その怒りのまま、魔神は今度はライに向かって足を振り下ろした。ライを踏み潰そうとしているのだろう。
「よーし。私も頑張っちゃうぞー」
テールの実力に感化されて、ライもやる気を出す。
ライに向かって振り下ろされた足は、地面に激突した。地面にヒビが入って大気が揺れる。大きな砂埃に、辺り一面は覆われた。
「よっと」軽い掛け声とともに、ライが砂埃を突き破る。「目をもらおう」
ライが現れたのは、魔神の目の前。一瞬で20メートルある魔神の目の前まで跳躍したのだった。
ライはそのまま魔神の顔面に張り付き、どこからともなく小太刀のような武器を取り出す。
そして、
「目は柔らかいよね」
言いながら、小太刀で魔神の目を斬りつける。
瞬間、魔神が唸る。どうやらライの予想通り、魔神とはいえ眼球部分は柔らかいようだった。
魔神は蚊を追い払うように、ライを狙う。しかしその瞬間には、すでにライは魔神の顔付近にはいなかった。
すでにライは着地していた。魔神の目で負えないほどのスピードで、地面に戻っていた。
「大したスピードだ」
テールが本気で感心したように言う。
「そっちこそ。凄いパワーだね」
ライがテールを認めたように言う。
お互いに、相手の実力を認めあったようだった。
「さて……魔神とやら」テールは刀を魔神に向けて、「ツイてなかったな。復活した瞬間に、こんな奴らに出会っちまうとは」
「私はツイてたけどねぇ」ライは魔神に手を振る。「じゃあね魔神さん。ちょっとだけ楽しめたよー」
テールもライも、すでに魔神に負ける可能性は考慮していないのだった。
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