第6話

 魔神に会うために、ライとテールは山の近くの広場にやってきた。


 広場というよりもただの平原だが、とにかく魔神を迎え撃つには悪くない場所にテールには思えた。


「ここにいれば、魔神の復活が拝めるだろう」


 そう言って、テールは手近な岩に腰を下ろした。


「そうだねー」ライは相変わらず緊張感なく、「それまでどうする? ケンカする?」

「それも悪くないが……まぁ魔神を拝んだあとだな」

「そっか。じゃあそれで」


 ライは素直なのは素直だった。最終的に強い相手とケンカができるなら問題がない、という思考だった。


 風の吹く音と、ライがせわしなくその場を動き回る音だけが響いている。どうやらライはじっとしていられないタイプのようだった。


 夜まで少し時間がある。その時間をつぶすために、テールが言う。

 

「ライ」

「何?」

「なぜ、強いやつを求める?」

「戦いたいから」

「なぜ戦いたいんだ?」

「……さぁ、なんでだろうね。気がついたときから、私は強い相手を求めてたから」


 いわば本能かな、とライは続ける。


「テルはどうなの? どうしてきたに行くのかって聞かれたときに『南が嫌いだから』って答えていたけれど、どうして南が嫌いなの?」

「北が好きだからだ」

「そういうつまんない逃げ方やめてよ。北が好きなわけじゃないでしょ?」

「……なぜそう思う?」

「カン」


 本当にそれだけだった。しかしライの言うカンは、経験と洞察に基づいた、非常に精度の高い洞察のことを言うのだった。


「……南が嫌いってのは本当だぞ」

「どうして?」

「……嫌なことを思い出すからだ」

「嫌なことって何?」

「……」テルはため息をついて、「聞けば答えてくれると思うなよ」

「ああ……じゃあいいよ。別に興味ないし」

「ならばなぜ聞いた」

「暇つぶし。傷つけたのなら謝るよ。悪いとは思ってないけれど」

「……」


 女店主が言っていた『ライは結構残酷』という言葉を、テールは理解し始めていた。それは対戦相手に対して容赦をしないという意味で残酷なのだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。


 とはいえ、この程度の問答で傷つくテールではない。


「テールだ。テルじゃない」

「そっか。よろしくねテル」


 挑発したいのかバカなのか、本気で理解できないのか、ライはテールのことをテルと呼ぶ。毎回テールは修正しようとするが、うまくいかない。


 どうにも手に負えん、とばかりにテールは会話を打ち切った。これなら魔神でも相手にしていたほうがよっぽど楽だ、とテールは思った。


 しばらくしてから、


「……暇だねぇ……」ライがあくびをしながら、「遊び道具でも持ってくればよかったかなぁ……相手もいるし」

「……俺はやらないぞ……」

「そっか……じゃあ魔神とサッカーでもしようかな」


 できないだろ、とテールは思った。しかし案外魔神が友好的でないとは言い切れない。だからツッコミを入れるのはやめた。


 いよいよ会話することがなくなった。しかしテールとライは別に会話がなくても困らないタイプなので、静かなままその時が訪れた。


「……来た」


 テールがそうつぶやくと、


「お……」地面の揺れを、ライが感知する。「揺れてる揺れてる。地震かな?」

「……魔神が復活する余波じゃないのか……」

「あ、そうか。そろそろそんな時間か」


 ライはアホなようだった。元気のよいアホだった。そしてそのアホは元気よく立ち上がって、


「よーし。魔神さんってのは強いのかな?」

「弱かったらどうする?」

「さっさと片付けて、テルと戦うよ」

「……テールだ……」

「そっか。ごめんねテル。長い名前を覚えるの、苦手なんだ」

「……そんなに長くないだろう……」


 テールは3文字。片手で数えられる文字数である。


 そんな緊張感のない会話をしているうちに、地面の揺れはドンドン大きくなっていく。

 そして、空に雷光。その雷光は山の頂上に向かって一直線に落ちて、そして……


 魔神が現れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る