第2話

「あんたもねぇ……もう少し女の子らしくしなさいな。この間だって、路地裏でケンカしてたみたいじゃない」

「あれは向こうから仕掛けてきたんだよ。私がケンカ売ったわけじゃないよ」

「……仕方がない子ねぇ……本当に……」


 そう言ってため息をついたのは、酒場のカウンターでグラスを洗う女店主だった。


 ここはとある村の酒場。夜が更け始め、客の入りが多くなってきたところだった。

 客の数はおよそ15人。そこまで広くない店内は、すでに賑わっていた。


 そんな中、酒場に似つかわしくないほど若い少女が1人、カウンターでジュースを飲んでいた。

 小柄だが端正な顔立ち。黙っていれば美少女だと評判のおてんば娘。髪の毛は短く、手入れされているようには見えなかった。


 その女の子に、女店主は話しかける。


「そもそも……ここはあんたみたいな子供がいていい場所じゃないのよ」

「なんで? お金は払ってるよ」

「そういう問題じゃなくてねぇ……女子供が一人で来るような場所じゃないって言ってるの」

「女店主が言っても説得力ないなぁ」

「……はぁ……あんたに何を言ってもムダよね……せめてもう少し常識ってものを身に着けたら?」

「そう。それなのですよ」少女はビシッと女店主を指して、「常識ってどうやったら身につくの? あと……共感する心も足りないって、よく言われるんだけど。どうやったら身につくと思う?」

「女の子らしく、普通に生きてたら身につくわよ。むしろ身についてないほうが異常なのよ」

「……ふーん……難しいですなぁ……」

「普通に喋りなさい。ライ」


 ライ、と呼ばれた少女は独り言のように、


「普通に喋るってなんだろう……難しいなぁ……」


 普通、というのがライにはよくわからない。自分は至って普通のつもりなのだが、どうにも世間から見れば自分は普通ではないらしい。


「そんなだから、あんた友達できないのよ」

「求めてないけどね。友達」

「強がらなくていいから」


 強がっているつもりはまったくない。ライは本心から友達がいらないと言っている。


「少なくとも、普通の女の子は強い相手を求めないの。もっとおしとやかに、男性に守られて生きていればいいの」

「誰が守ってくれるのさ。私より強い人なんて、この辺にはいないよ」

「そこまで強いのも、おかしいの」

「ふーん……」


 ライにとってはよくわからない話だった。女性は守られるのが普通だというのなら、男性が強くあるべきだろう。だけれど、大抵の男性はライよりも弱い。それは自分が強いのが問題なのではなく、男性陣が弱いほうに問題があるように思えるのだ。


 普通とはなんだろう、それが最近のライの悩みの一つであった。


 もう1つの悩みは、自分より強い相手が見つからないことである。

 この辺の腕自慢はだいたい返り討ちにした。だったら……そろそろ旅にでも出ようかと思っているのだった。強者探しの旅に。


 そんな事を考えながら、ライがオレンジジュースを半分ほど飲んだときだった。


 酒場の扉が開く音がした。

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