伝説の妖刀に選ばれなかったので刀は抜けなかったが、鈍器として大活躍しました。
嬉野K
第1話
「もうすぐ下山ってところで、災難だったな。ところでこのまま北に行けば、村があるか?」
雨の降る山の中、刀を背負った体躯の良い男がそう言った。
その目線の先には、腰を抜かして倒れている老人と、その傍らに佇む少年の姿があった。
少年と老人はポカンとした表情を浮かべていた。
「北のほうに村はあるか?」
刀を持った男がもう一度聞くと、少年がハッとしたように、
「あ、あるよ……小さいけど。有名な占い師がいる村がある」
「占い師……そう簡単に情報は売らないかもな」
「へ……?」
「なんでもない」つまらないダジャレを言ったあと、「助かったよ。ありがとう」
そう言って、男は北に向かって歩き出した。刀の先を地面につけて、引きずりながら歩いていた。
少年は呆然とそれを眺めていたが、やがて、
「……おじさん!」
「……なんだ?」
「ありがとう……助けてくれて」
「別に助けたわけじゃない。俺にとっても邪魔なものだったから、壊しただけだ」
「でも……」
「そんなことより、じいちゃんを気にしてやれよ。魂抜けたような表情してんぞ」
男の言う通り、腰を抜かした老人はとても驚いていた。
「じゃあな。気をつけろよ」
そう言って、男は去っていった。ガリガリと刀の先で地面を鳴らしながら、歩いていった。
少年と老人は二人きりになって、
「じいちゃん……大丈夫?」
「……」老人は男が去っていった方面を眺めながら、「あいつは……何者なんだ……?」
「わかんないよ……でも、助けてくれたのは事実でしょ?」
「ああ……だが……」
老人はあたりに転がっている岩の破片を見ながら、言う。
「あんな大岩が転がってきて……ワシは死を覚悟した……」
「俺もだよ……あんな岩が直撃したら、お城でも崩壊するよ」
直径15メートルはあろうかという大岩。それが山の斜面を滑り落ち、少年たちを襲っていた。
「しかしあの男は……その大岩を砕きおった……」
少年たちを襲った大岩は男の手によって粉々にされたのだ。
「俺も驚いたよ……しかも、あの人……刀を抜いてなかったよね?」
「そうなのか?」
「うん……鞘に入ったままの刀で、岩を砕いてたよ」
「……」
「……」
自分たちの常識を超えた光景を目の当たりにした直後だ。少年たちはしばらくその場から動けなかった。早く下山するべきなのは理解していたが、体が動かなかった。
「……あのおじさん……何者だったんだろう……」
☆
少年たちの場所をあとにした刀を持った男は、歩きながら、
「おじさんねぇ……俺もそんな歳か。そりゃ地域の都市化も進むわな」
つまらないダジャレを言いながら、北に向かっていた。相変わらず刀の先を地面にこすりながらの移動だった。
雨はしばらく降り続くようだった。
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