第3話 そんなの親じゃない
夜飯の準備も終わり、夜飯を食べるだけになった所で二人に声をかけた。
「飯出来たぞー」
今日の夜飯はからあげ。
あの子はお肉を食べて滅茶苦茶に感動をしているようだったし、きっと喜んでくれるだろう。
「今そっち行くねー」
莉愛がそう叫びながら階段を降りてくる。
「おっ、家用の服も買ってたのか」
「そうなのそうなの! 似合ってると思わない?」
「あぁ、似合ってるぞ」
「あ、ありがとう⋯⋯」
恥ずかしそうにしながらお礼を言ってくる姿がどこか愛らしく一瞬感じたが、まずはご飯だ。
「今日はからあげだ」
「お兄ちゃんのからあげ久々だー!」
「からあげって⋯⋯何?」
「「えっ」」
国民的料理のからあげをご存知で無い?
「い、今まで何を食べてたんだ⋯⋯?」
「えっと、納豆とか、お米とか、お味噌汁とか、大根と里芋の煮物とか、あと野菜炒めとか⋯⋯」
「肉は⋯⋯無いの?」
「お肉って何?」
「このからあげとかに使われてるやつなんだけど⋯⋯」
「あとお昼に食べたハンバーガーとかだな」
「あの美味しいの!?」
「あ、あぁ⋯⋯」
「あれわたし初めて食べた!
ご飯ってえいよー?って言うのを取るためって言われてたから頑張って自分で作って食べてたけど、今思うとお母さん達は食べてなかった⋯⋯何で?」
「「⋯⋯」」
酷いなんて物じゃなかった。
親なのに子供の面倒も見ずにご飯まで作らせてた?
ここは日本だぞ?
「⋯⋯これからはお肉をいっぱい食えるようにしてやるからな」
「お兄ちゃん、私も協力する⋯⋯」
「あぁ、頼む⋯⋯」
「??」
不思議そうな顔をした彼女をよそに、ご飯をよそい、テーブルに置き俺達は食べ始める事にした。
「「「いただきます」」」
そして久々に作った料理を食べるのが莉愛以外と言うのもあって少し緊張している自分がいた。
「「⋯⋯はむっ」」
「⋯⋯」
「んー、やっぱお兄ちゃんのからあげは美味しいねー!」
「サクサクしてて、すごく美味しい!」
目から光が出そうなくらいに目を見開きながらそう言ってくれた。
こうなると、作った甲斐があったなと思い少し満たされたような気分になる。
「そう言ってくれて嬉しいよ」
「お兄ちゃん、ご飯おかわり!」
「いや早いな!?」
「そ、その、わたしも良い⋯⋯?」
「お、おう! いいぞ!」
多目に作ったからあげは一瞬で無くなり、片付けをしようと俺は立ち上がる。
「あ、あの! わたし洗い物とかは出来るからやれます!」
「気にしなくてもいいぞ?」
「だって、わたし食べて、服も貰って何も返せてないから⋯⋯」
「⋯⋯そうか、じゃあ頼んでも良いか?
って言いたいところなんだけど、うち食洗機なんだよな⋯⋯」
「食洗機?」
「ついて来てくれるか?」
「うん!」
そして俺はキッチンへ向かい、食洗機の中に汚れたお皿を入れる。
「ここにこんな感じで入れて、このボタンを押すと⋯⋯」
「す、すごい! お皿が勝手に洗われてる!」
「だろ?」
「だからやらなくても良いんだよな。
まぁやるとしたら終わった後の片付けくらいだけど⋯⋯」
「じゃあ、それはわたしがやる!」
「まぁ、それくらいはいいか⋯⋯」
そして再びリビングに戻ると莉愛が椅子に座りながら俺達を待っていた。
「あーやっと戻って来たね」
「ん? どうかしたか?」
「いやまず大事な事を忘れてると思って」
「「大事な事?」」
俺と少女は二人して同時に首を傾げる。
「その子の名前だよ!」
「あっ」
心の中では少女だとか彼女って呼んでいたから完全に忘れていた。
「名前⋯⋯?」
「とりあえず俺達もちゃんと自己紹介するべき⋯⋯だよな」
「だと思う」
「まず俺は
「私は
お兄ちゃんが何度か名前を言ってたから分かってるかもだけど!」
「わたしには、そんなの無い⋯⋯」
「だからさ、ハンドルネームで良いから名前を決めたいと思うの!」
「ハンドルネーム?」
「本来今俺達が名乗っていた名前はインターネットって言う俺が仕事をしている世界ではほぼほぼ名乗らないものなんだ。
名前がバレるとこっちでも影響したりするからな。 まぁ俺は顔出ししてるからあんまり影響は無いけど⋯⋯」
「だからわたしに名前をくれるって事?」
「ちょっと違うな。 自分の名前を自分で考えるんだ」
「わたしの、名前⋯⋯」
「無いなら作っちゃえって事だね!」
「そう言う事だな」
「それで、今思い出したんだが、もう一つ大事な事がある」
「もう一つ?」
「まず君がどうしたいのか、だ」
「どうしたい?」
「家に帰る気があるのか、無いのかだな。
あと戸籍の問題もあるが⋯⋯おそらくその様子だと戸籍も無さそうだな」
「家には、帰りたくない⋯⋯」
「辛かったら良いんだが、何があったのかだけでも聞かせてもらっても良いか?」
「うん⋯⋯」
♢
確かこれはわたしが18歳になったって言っていた日だったと思う。
朝起きて、自分のご飯を作っていると、やけに笑顔のお父さんとお母さんが、わたしに誕生日おめでとうと言ってくれた。
今思い出すと、18歳という年齢はこの国において大人とみられるようになる、って言っていたのは覚えてる。
でも、今日の家族の様子はなんだかおかしかった。
まず、今までわたしが誕生日だからと祝ってもらった事なんて一度も無かった。
妹が学校に通う年になって学校に行くようになっても、わたしは学校なんてものに行かせてもらったことはないし、そんなわたしのことをバカにしてくる妹も、いつも厳しいお母さんもお父さんも、今日はやけに優しいから。
何かがおかしいと思っていたけど、分からなかった。
でもその日の夜何かがおかしいが、その理由がわかった。
わたしが寝る前にお母さんが電話をしていてその内容を聞いちゃったから。
「はい、私の娘は今日で18になりました⋯⋯教祖様もきっと気に入ってもらえるかと⋯⋯」
教祖、気に入る。 その二つの言葉を聞いた瞬間、わたしの身体に物凄い勢いで悪寒が走った。
ここにいたら、わたしは酷い目に遭うと思った。
そんな直感めいた確信もあり、わたしは家の二階から飛び降りて、行った事も無い街に走って行ったの。
少なくとも、ここにいるよりはマシになる⋯⋯そんな気がしたから。
でもその後すぐに出会ったのが、リトと莉愛だった。
♢
「それは本当に親か?」
「出てきて正解だよ!!!!」
彼女の過去は壮絶の一言だった。
風邪を引いても病院に行かせないのは当然として、市販の薬だけで全てを代用。 下手をすると薬を飲まない事もあったとか。
その上家事の殆どはやらせると言う外道っぷり。
しかもようやく成人したかと思えば教祖への生贄? ふざけるのも大概にしろよ?
「よく頑張ったな。 俺達がなんとかしてやるから」
聞いた内容から、俺は昔馴染みに連絡する事を決めた。
それと、この子が一人でも生きていける環境を作ってやると、心に決めた。
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