星野真一と信子は、ひと気のない、海辺の夜の公園で出会い。お互いの名前を名乗ったあと、気が付くと、しっかりと固く抱き合っていた。理屈ではなかった。お互いがお互いを、「運命の人」だと直感したのだ。



「あたし、あなたのこと、まだ全然知らないけど。これまでの人生が、あなたに会うためのものだったって気がする……」


「俺もだよ。俺は、君に会うために今日まで生きてきたんだ。今それを、確信している」



 それまで考えたこともなかった、クサい口説き文句がスラリと口をついて出るほど、真一と信子はこの出会いを運命だと実感していた。2人はその夜ホテルへ行き、お互いの体を貪るように愛し合った。真一の性器は、何度到達してもすぐに復活し、信子もまた、何度でも真一を受け入れた。そしてようやく、2人が共に満ち足りたあと。それぞれに、「これまでの人生」を語り合った。



 真一は、小学校の頃にカサブタに興味を持って以来、「人の体に付く傷」に惹かれ続けていること。信子は、自分が「目立たない、大人しい女子」でいるために、その障害となるものを排除してきたこと。何も隠すことなく、話し続け。やがて真一は、メンヘラ女子の喉を、自分の手で切り裂いたことも打ち明けた。



「凄かったよ……あの時はまだ高校生で、録画する設備とかなかったからね、隠し撮りするためにどこかにスマホを隠したら、後から来る女子と連絡取れなくなっちゃうし。それでも、なんとか録画しておくんだったと、今でも後悔してる。その女子の喉元から、一気にぶわああっ! と噴き出た血の中にね。俺は、虹が見えたような気がしたんだ……」


 ウットリとした目付きでそう語る真一を、信子は「ああ、ほんとにこの人は『運命の人』なんだ」と、胸が熱くなる想いで見つめていた。高校の時、2年生女子が言ってた、ラブホテルで死んだ女子高生。あれは、この人がやったことだったんだ。やっぱりあたしたち、出会う運命だったんだ……!


 感激した信子も、高校生の時に自分を痛めつけた上級生を、「あらゆる手段」を使って追い詰めた話をした。


「あれは本当に、あたし自身が『自分の才能』に気付いた瞬間だったかもしれない。あたし自身は何もせず、やり方だけを考えて、他の人に実行させる。そういう才能って、そういう機会に巡り合わないと、開花しないものね……」


 信子の話を聞き、真一は「ひゅう~♪」と口笛を鳴らした。自分を痛めつけた本人には、手を出さず。その家族を貶めることによって、復讐相手を追いこんでいく。自分の手を、汚すことなく。なんて素敵なアイデアなんだろう。そして、それを実行した信子という女は、なんて最高なんだろう……!



 その後真一が大学を卒業し、IT企業に就職して間もなく、2人は籍を入れた。それ以外に、他の選択肢など考えられなかった。最初はこじんまりしたアパートに住み、2人だけで、真一が集めた画像や動画を毎日のように鑑賞していた。そしてある日、真一がふと呟いた。



「もう、あれから何年経ったかな……。いつかやりたいと思いながら、これまでは調査の段階で終わったまま、目的を果たせなかった。でも、そのおかげで信子と知り合えたから、俺にとってはベストと言える選択だったけどね。


 でも、これからまた。そう、今度は、信子と一緒に。改めて、また『やりたい』と思ってるんだ。血しぶきの中に虹が見えるような、そんな『最高の瞬間』を見るためにね……!」



 信子も、真一と同じ思いだった。信子の中で、中学の時にいじめグループのリーダーの股間を踏みつけた、あの時の感触が。未だに生々しく残っていたのだ。

 ……あれからあたしは、自分自身は手を出さないことに主軸をおいていたけど。出来れば、あの感触をもう一度味わいたいと思っていた。目の前の人間を、完璧に屈服させたという、あの恍惚感を……!


 この人=真一となら、それが可能になる。信子は、そう確信していた。そして2人は、お互いの目的を達成するための、具体的な計画を考え始めた。



 やはり、思い通りに人を好きに扱うのなら、「自分たちの城」があった方がいい。そのためにも、2人ではなく、少なくともあと1人か2人、「仲間」がいることが望ましい。計画を円滑に遂行するためには、「協力者」の存在は必要不可欠だと思われた。


 そこで真一が、裏サイトを通じて、同じ趣味趣向を持つ「同志」を探すことを思いついた。裏サイトであっても、真一の呼びかけに反応した者の大半は、イタズラか冗談半分のものだと思われたが。1人だけ、「こいつは恐らく『本物』だ」と思えるレスが入った。それが、その時すでに医師を辞めていた、三ツ谷からのものだった。


 そのレスは、「あなたの話に、大変興味を持ちました。しかし、あなたがどれだけ本気なのか、ここでのやり取りだけでは判別致しかねます。出来れば実際にお会いして、詳しい話をお聞かせ願えればと思います」と、丁寧な口調で綴られていた。



 それが「本物」だと感じたのは、言葉の丁寧さだけでなく、真一側の「真意」を問いかけてきたからだった。他のレスは、真一に対していかにも乗り気のような言葉で称賛していたり、実現不可能なことをズラズラと並べていたりするものばかりだった。真一が本気かどうかが気になったということは、このレスの主も、それだけ本気だということだ。真一はそう信じ、レス主に会うことを決めた。


 実際に三ツ谷に会って、信子に会った時のような「運命的なもの」こそ感じなかったが、話すうちに、「巡り合うべき相手に、出会えた」と実感していった。ある程度自由になる金が手元にあり、医師の心得もある。「仲間」として、これ以上の人間は考えられなかった。そして、真一と信子、三ツ谷の3人は遂に、自分達の「城造り」に着手した。



「城」を造る場所は、「隣家」からある程度の距離が保てる、高級住宅街に的を絞った。そして、「小高い丘の上にある、ハイソな住宅街」が、その目的に最も適していると思われた。「小高い丘の上」なら、目的のメインである、「地下室」も作りやすいのではないかと。工事が順調に進み、完成の目途も立ったところで、真一たちは「次なる計画」に入った。この「城」で、自分達の欲望を満たすための、「対象」を探す計画に。


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