「始めさせてもらうとするか。私の”ゲーム”を」


 真一の「宣告」を聞いた健吾が、これから自分の身を襲うであろう出来事を想像し、身も心もこわばらせていた時。


 地下室への階段に続く、応接間に隣接した扉が、「カチャリ」と開いた。中から出て来たのは、真一の隣人・三ツ谷だった。



 中肉中背の、いかにもサラリーマン体型という感じの真一に比べ、三ツ谷は少し背が低く、肉付きのいい「小太り」と言ってもいい体型をしていた。体の前面には、肉屋か魚屋かと思わせるような作業用のエプロンを着ており、そのエプロンには、赤い血がベットリと付着していた。その赤い色は、ぱっと見てすぐに「付着したばかりのもの」だとわかるくらいにネットリと光っていて、それは恐らく一朗のものかもしれないと、健吾には思われた。


 三ツ谷は「いや~喉が渇いた、ちょっとビールもらうよ」と言いながら、何事もなかったように、健吾が両手を打ち付けられたテーブルのある応接間を横断していった。信子も「どうぞ」と軽い返事を返し、それはまさにこの状況が、彼らにとっては「ありふれた光景」であることを表していた。



 缶ビールを片手にキッチンから出て来た三ツ谷は、缶を「ぷしゅっ!」と開けると、美味そうにごくごくと飲み。泡の付いた口元を片手で軽く拭いながら、「おっ、やってるな」と、そこで初めて気付いたかのように、テーブルに突っ伏す健吾をジロジロと見始めた。


「いい感じだねえ、これなら何でも出来るな。この、ひれ伏すような体勢になってるのがまた、たまらないねえ」


 三ツ谷は健吾の体に向かって手をかざし、「いい眺め」だと言わんばかりに頷いた。


「なかなかいいだろう? どこから責めようかなと、考えてたんだが……」


 そこで真一は、何かを思いついたように、一度言葉を切り。それから「ニヤッ」と笑って、三ツ谷に語りかけた。



「そうだ……君の運転手を、呼んで来てもらえるかな? 何度も来てもらって、申し訳ないけど」


 真一の言葉を聞いて、三ツ谷の表情が「ぱっ」と明るくなった。それは明らかに、これから起こることへの期待を現した表情だった。


「いいのかい? いやあ、『彼』も喜ぶと思うよ。この青年は、けっこうハンサムだしねえ」


 三ツ谷はそう言い残して、嬉々とした表情のまま、裏口へ向かっていった。


 少しして、再び三ツ谷が応接間にやって来た。三ツ谷の横には、「いかにも」といった制服に身を包んだ、三ツ谷の「運転手」が立っていた。


 運転手は2メートル近い身長で、着ている白いシャツが張り裂けんばかりに、広い肩幅と厚い胸板にピッタリと張り付いていた。その体格は、この男に力づくで抑え込まれたら、どうあがいても抵抗など出来やしないと思わせるのに、十分だった。



「さっきはありがとう。そのお礼と言ってはなんだが……この青年を、君の『好きにして』いいよ」


 真一のその言葉に、運転手は一瞬「ビクッ」と体を震わせ。それから遠慮がちに、「……いいんですか……?」と、真一に「お伺い」を立てた。


「いいんだよ、どうぞどうぞ。私と信子、それから三ツ谷さんも、君の『行為』をここで見させてもらうけど。それはかまわないだろ?」


 真一にそう言われ、三ツ谷もニヤニヤとしながら、運転手の動向を見つめている。運転手は、「はい……もちろん、かまいません」と簡潔に答え、健吾の背後に回ると、横長のソファーを「ずいっ」と後方に押し下げた。



 おい……何をする気だ? まさか、まさか……??


 健吾は、ガタイのいい運転手が何をするつもりなのかと、身を固くしていたが。しかし、健吾の予想していた「最悪の出来事」が、そこで始まった。



 運転手は、健吾の背中とソファーとの、狭い間に入ると。健吾の腰に手を回し、健吾のズボンとその下に穿いていたパンツを、おもむろにずり下げた。健吾の臀部が丸出しになったところで、運転手もカチャカチャとズボンのベルトを外し、自分の下着ごと、足首まで押し下げた。


 健吾の体勢では、下半身を晒らした運転手の姿を見ることは出来なかったが、自分の下半身が剥き出しにされたことで、「何をするつもりなのか」は予想がついた。だが、運転手を見られなかったことは、健吾にとって幸いだったかもしれない。運転手の股間にそびえ立つような、硬直していきり立った性器の大きさを見たら、それがもたらす「痛み」を予想してしまっただろうから。



 「や、やめ……!!」

 見れない背後を懸命に振り向こうとしながら、悲鳴のような声を上げる健吾に、一切かまわず。運転手は自分の両手で、健吾の腰を左右から、改めて「ガッチリ」と押さえつけ。自分の下半身を、健吾の臀部に、ぶつけるように一気に押しつけた。


「ぐわああああっ……!!」


 健吾にとっては、それはまさに「下半身を貫かれた」ような激痛だった。そして、自分の肛門を貫いた運転手の性器が、最初はゆっくりと、そして徐々に早く、激しく動き出すのがわかった。


「ぐわっ……あっ、あがっ、あうっ……!」


 運転手が前後に腰を動かし、下半身が臀部に当たる度に、健吾は嗚咽を洩らした。健吾のその苦悶に満ちた表情と、健吾からは見えなかったが、腰を動かすごとに恍惚となっていく運転手の表情を、真一も信子も、そして三ツ谷も、舌なめずりをしそうな目付きで見入っていた。


 運転手の動きは更に激しくなり、今や運転手自身も「はあ、はあ」と荒い息を付き始めていた。「はあ、はあ、はあ……!」「うぐっ、あぐっ、あああ……!!」運転手の吐息と健吾の嗚咽が、繰り返し繰り返し、応接間に充満し。やがて運転手の口から、「はあ……ぐわふっ!!」という嗚咽が漏れ。運転手の体が、弓のように「ピーーーン!」としなった後、全身の力が抜けてしまったかのように、ガックリと肩を落とし。それからようやく性器を、健吾から「ずぶっ」と引き抜いた。



 運転手はまだ荒い息をつきながら立ち上がり、ズボンを足首から持ち上げ、履き直した。


「……お疲れ様。後はまたゆっくり、三ツ谷さんの家で待機してくれればいいよ」


 真一にそう声をかけられ、運転手は真一と三ツ谷に、高い背丈を折り曲げるようにして、「ぺこり」と頭を下げると。応接間を出て、裏口へと歩いて行った。健吾は、運転手が去って行く足音を聞きながら、唇をぎゅっと噛み締め、悔し涙を流していた。両手の甲は、痛みに耐えようともがいたせいか、ピックとドライバーが突き刺さった部分に、更に血が滲んでいた。こんな風に、「後ろから、強引に”掘られる”」ことが、こんなに屈辱的なものだとは、想像もつかなかった。今はただ、その『屈辱的行為』は終わったのだと、自分に言い聞かせるしかなかった。



 だが、しかし。やはりそれは、まだ「終わり」ではなかった。

「いやあ……興奮したねえ、まだ傷つけていない、まっさらな尻が犯されるのは、久しぶりに見たよ。しかも君たちと違って僕はこちら側から、『特等席』だったからね」


 運転手の「行為」を、健吾の背中側からずっと見入っていた三ツ谷が、ため息まじりにそう言った。


「いや、彼の表情を真正面から見ているのも、かなりの興奮度だったよ。最初は激痛に歪んだ顔が、次第に悲しみと屈辱にまみれた表情に変わっていく、その経過がタップリと見られたんだからね。なあ?」


 真一の問いに、真一に寄り添うようにして「行為」を見ていた信子が、大きく頷いた。

「そうそう、しかもこんな、イケメン君がね。この綺麗な顔が、苦痛と屈辱に歪んでいくのは、たまらないわ……!」


 それはあたかも、健吾の感じる苦痛が、信子の「歓び」であると言いたげな口調だった。そして真一は、妻のその官能を、増幅させてあげようと考えた。



「なあ、三ツ谷さん。良かったら……君も、どうだい?」


 三ツ谷みしてみると、それは待ち望んでいた言葉であり、しかし自分から言いだしていいものか……と躊躇していたことだった。三ツ谷は満面の笑みを浮かべ、それでも少し遠慮がちに、真一に確認した。


「ええ、いいのかい? 私はもう1人の奴を、私1人で好きにしているのに。こいつは、『君の獲物』だろう?」


 真一は健吾に手をかざし、「ふふっ」と笑った。

「ああ、いいよ。君の協力なしには、この『獲物』は捕まえられなかったかもしれないからね。私と信子は、ここでまたじっくりと見させてもらうよ」



 それを聞いた三ツ谷は、「そ、それじゃあ……」と、急いでエプロンを外し、ズボンを脱ぐのももどかしいように、健吾の背後に入り込んだ。


 ……おい……嘘だろ、おい……!

 健吾の「心の叫び」も虚しく、三ツ谷は先ほどの運転手と同じように、健吾の腰を、両手でがっしりと掴み。「じゃあ……いくよ」と言った側から、下半身を健吾に突き立てた。


「! ! ! !」


 健吾は、今度は苦痛の声や嗚咽を洩らさないよう、必死に歯を食いしばった。自分の洩らす声が、真一や信子の「歓び」に繋がるのだとわかり、「そうはさせるか」と、耐えぬこうと試みたのだ。それが今の健吾に出来る精一杯の、唯一の「抵抗」だった。だが、そんな風に声を洩らさぬようにと「耐えている様」もまた、真一と信子をたまらなく興奮させていたのだが。


 背筋を伸ばしたまま、下半身だけを健吾に突き立てていた運転手に比べ、三ツ谷は健吾の背中にしなだれかかるように、自分の体を密着させてきた。健吾の腰に当てていた手を、次第に健吾の脇腹や胸、更に性器のあたりに這わせ。それから右手で、「ぐいっ」と健吾の顎を持ち上げた。


「なあ、どうだ? 痛いか? それとも、感じてるのか? 痛いなら痛い、気持ちいなら気持ちいいって、素直に言ってみろよ! なあ!!」


 そう言いながら三ツ谷は、更に下半身を激しく前後させた。顎を掴んで持ち上げられ、テーブルに着いた手がピーンと伸びた状態になった健吾は、甲を貫かれて動かせない手の指で、テーブルの表面をガリガリと搔いていた。まだ続くのか、まだ終わらないのか……?! と、それだけを一心に考えながら。



 そして三ツ谷は、右手で健吾の顎を、左手で健吾の性器を「ぎゅっ」と握りしめるようにして、「ああああああ、あうううう!!」と、それまでより1トーン高い、雄たけびのような声をあげた。それから、自分の腹を健吾の背中に密着させたまま、健吾の全身を両手でこれでもかとまさぐった後、やっとのことで健吾から体を離した。


 快楽を満喫した三ツ谷は、しばらくソファーにもたれかかり、茫然としていたが。やがて、「よい……しょっと」と体を起こし、ズボンを履き直すと。エプロンも付け直して、「ふう……」と大きなため息をついた。


「いやあ……良かった。良かったよ。運転手のを見て気分が高まったところで、自分がやるっていうのがまた良かったんだろうな。いや、星野さん、感謝します。君もこれで、ある意味『男』になったな。うん」


 そう言って三ツ谷は、からかうように健吾の尻を「ぺちん!」と叩いた。健吾にとってはそれも、屈辱の上塗りでしかなかった。2人の男に続けざまに犯され、健吾はもはや、抵抗する体力も気力も失せかけていた。何より精神的なダメージが、健吾の心を折れさせていた。……俺はもう、こうしてこいつらの”おもちゃ”にされるだけの存在になったんだな。そういうことなんだな……。健吾の胸の中に、そんな空虚な想いだけが浮かんで来ていた。


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