「それで……きみ、名前は?」


 すっかり黙り込んでしまった由乃の代わりに俺が見学しに来た女子の応対をしている。

 なんで俺がこんなことやらないといけないのかね。俺、ゲームしていたいのだけど。


野島光のじまひかり。あなたは?」


 光、と名乗った女子は俺にも尋ねてくる。


「俺は上田翔矢。一応、この部活所属。よろしく」

「一応って何? 一応って」


 これまで黙っていた由乃が急に睨みつけてきた。


「そっちの人は?」


 光は由乃の方を向いて訊いた。


「……み、水谷……由乃……です……」

「フフフッ……」


 めちゃくちゃ小さい声で自己紹介した由乃を見て、光は笑う。


「なんかさ、さっきスクールバッグ投げてた人と同一人物とは思えないっつーか」

「……まあ、これでも特研の部長なんだよね、この子」


 俺が説明する。


「それでさ、リョウくん。この子……えっとー、野島さん、との接点は?」


 なんとなく遼に訊いてみる。

 ノートに何かを書いていた遼は手を止めて答えた。


「野島は二学期から転校してきて、今は僕と同じクラスなんです」

「へぇー。どこ住んでたの?」

「東京」

「あ、そう」


 都会っ子だね。

 ていうかこの子、すごく返事が素っ気ないんだけど。


「それでリョウくんから誘われたってわけ?」

「ううん、違う」

「じゃあどうして?」

「昨日ここ通りがかったら面白そうな話が聞こえたから来てみた。それだけ」


 面白そうな話……なんてしてたっけ?

 俺が帰った後かな?

 由乃の顔を見ると、彼女は首をかしげていた。何のことか分からないようだ。



「水谷くん」


 光は由乃に声を掛けた。

 水谷くんって……。いるんだね、そんな大学教授みたいに女子のことも”くん”付けで呼ぶ人。しかも彼女、俺らより後輩だよね。


「え、えっ?」


 由乃も反応に困っている。


「……? 何か?」

「い、いや……なんでも、ない……。それで……なんか……あった?」

「それ見せてよ」


 光は由乃のタブレットを指さす。


「で、でも……」

「いいじゃんユノちゃん、せっかく見学しに来てくれたんだし」


 俺がそう言うと、由乃は渋々タブレットの画面を表示させて、光に渡した。


「こ、この画面以外は見ないでね……」

「見られちゃ恥ずかしいものでもあるの?」

「そういうわけじゃないけど……」

「あはは、冗談。見ないよ」


 光は由乃から渡されたタブレットを興味深く見て、ほぉ~、とか、はぁ~、とか息を漏らしている。


「ねえねえショウ」


 由乃が小声で呼びかけてきた。


「何? ユノちゃん」

「あの子……何者かな?」

「さあね。でも分かったことといえば、彼女は変人ってことかな」


 これは間違いないでしょ。


「質問いい?」


 光が声を上げる。


「これって『マスクド戦士』のビジュアルだよね。コンテスト出るの?」

「うん! 出るの!」


 由乃が急に元気な声になって話し始める。

 遼の様子を見てみると、由乃を見て一度大きなため息をついただけでまたノートに何か書き始めた。

 どうやら昨日の口論は由乃の勝ちだったみたいだ。


「ビジュアル考えてるときほど燃えることはないよー。やっぱり戦士はスマートなのがかっこいいよね! 最近はなんかごちゃごちゃしてるデザインのもいるけど、あたしはシンプルイズベストだと思うの! くぅ~、想像するだけで燃えるっ‼」

「うん……このビジュアルかっこいいと思う。それで……どのベルトで変身するの?」


 光は部室の脇に並べられているおもちゃの変身ベルトを見て由乃に訊いた。


「……それはまだ……」

「じゃあこの辺のは?」

「それは僕が作ったおもちゃだ。変身はできない」


 遼が会話に入ってくる。


「ま、まあ……ほら! 試作機ってところだよ」

「つまり、作り方分かんないってこと」


 俺がそう説明した。


「なるほどね」


 光が頷く。

 そして言った。


「じゃあさ、波城ハクに訊いてみたら?」



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