「波城……ハク……?」


 光からの唐突な提案に俺たちは首をかしげる。


「あれ? 知らない? 波城ハク。『ベルセルク』の脚本だけど」

「いや、当然っ……当然、知ってるよ。でもさ、なんでどうやったら変身できるかを波城ハクに訊くのかなって……」


 由乃が戸惑いつつも言う。

 光はそれを聞いて、さも当然といった風に答えた。


「だってハクくんってもともとプログラマーだし」

「え?」


 由乃はポカンと口を開けている。


「まさか由乃先輩、知らなかったんですか?」

「と、とと、当然! 知ってたよ! 知ってたに決まってるでしょ!」


 遼の質問に対して、由乃は無理に笑顔をつくる。

 ウソはいけないよ? ユノちゃん。


「これは知らなかった顔だねえ」

「ちょっとショウ!」

「翔矢先輩がやってるそのゲーム……『マスクド大戦記』をつくったのは波城ハクです。合ってるよな? 野島」


 遼が説明して光に確認する。


「さすが、豊田くん。その通りだよ」


 へえ、俺も知らなかったよ。覚えとこっと。

 遼は続けて訊く。


「だが、波城ハクと簡単に連絡なんて取れるのか? 彼は多忙だろ」

「ツイスタでDMしたら返してくれるよ」


 遼の質問にも光はすぐに答えた。

 そんな彼女の様子を見て、俺は尋ねてみた。


「ねえねえ。野島さんってさ、波城ハクと知り合いだったりするの?」

「うん」

「どうして⁈」


 今度は由乃がずいっと身を乗り出してくる。


「だって私のパパ、野島斗真とうまだし」


 光があっさりとそう言った。

 それを聞いた由乃が目をぱちぱちさせながらさらに質問する。


「野島斗真って……あのノジマプロダクションの?」

「うん」

「会わせて!」


 そして今度は妙に興奮し始めた。

 ノジマプロダクション代表の野島斗真と言えばちょっとした有名人だ。

 なんせ『ベルセルク』の監督だからね。

 だから由乃が会いたがるのもそりゃあ当然だよ。


「会わせて会わせて会わせて! お願い! お金なら出すから!」


 おいおい、お金ないって言ってたじゃん。

 そんな風に追いすがってくる由乃に、光はなだめるように言う。


「ちょっと……きついね」

「なんで⁈」

「私さ、パパに避けられてるから」


 そう言って光は、あはは、と笑った。

 少し悲しげに見えたのは俺だけかもしれない。



「さてと、じゃあ私はこの辺りで帰ろうかな」


 光が帰り支度を始める。

 そんな彼女に由乃が言った。


「待って! ヒカリちゃん、特研、入らない?」

「うーん……」


 光は少し考えるそぶりを見せて、それから笑った。


「遠慮しとこっかな」

「え……なんで?」


 光はそんな由乃の問いには答えずに続ける。


「でもまた顔は出すよ。こんなに楽しかったのは久々だし。君たちもみんな面白いからね、あは」

「……うん、じゃあ、またいつでも」


 光はスクールバッグを重そうに持ち上げた後、手を振って去っていった。

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