5
放課後、いつも通りのんびり部室に行く。
あれ?
体育館入るといつもは由乃の声が聞こえてくるんだけど、今日はやたら静かだ。
もしかして来てなかったりするのかな?
「どもー」
部室のドアを開けると由乃の姿があった。
「なんだいるんじゃん。妙に静かだから今日は休みなのかと思ったよ」
そんなことを言いながら部屋に入る。
ちなみに今日は二年生は校外学習があるから遼は遅くなるらしい。
「ショウ、ちょっと今静かにしといて、作業中」
由乃は俺の方を見ずにそう言った。
ため息をついて隅にあるイスに座る。
俺が来た途端それですか。
由乃は一心不乱にタブレットに何かを打ち込んでいた。
遠巻きに画面を見てみる。
「……何それ?」
「…………」
無視かよ。さすがにひどいんじゃない?
しばらく『マスクド大戦記』をやりながら待つことにした。
スマホを取り出すとメッセージが来ていた。遼からだ。
『今日、見学者を連れていきます。特研の活動に興味があるみたいです』
メッセージはそう簡潔に書かれていた。
ふうん、そんなもの好きもいるもんだねえ。
ま、これは一応報告しときますか。
「ねえねえ、ユノちゃん」
「…………」
「ちょっとユノちゃーん?」
「…………」
「ユーノーちゃーん‼」
耳元で大声で叫んでやった。
「あー、もう‼ 静かにしてって言ってるでしょ‼」
由乃は大声でそう言うと、俺にスクールバッグを投げつけてきた。
まったく、大した暴力女だよ。
まあこんなの、寝てても避けられるんだけどね。
それで俺は避けたんだけど。
「うわっ‼」
誰かの悲鳴が真後ろで聞こえた。
由乃と俺はとっさに振り返る。
その視線の先には――
「ちょっと由乃先輩。何投げてるんですか?」
あきれ返っている遼の姿と――
「なんか……すごいね……」
そう言って苦笑いを浮かべ、由乃のスクールバッグを抱えている女子の姿があった。
由乃はしばらく何も言わずに目をまん丸にしていたが、やがて口を開いた。
「……誰?」
おいおい。
「由乃先輩、まずは謝ったらどうです?」
遼が大きなため息を一つついてからそう言った。
ナイス。
「ああ、そっか。……当ててしまって……ごめんなさい……」
謝られた女子はコクリと頷いて部室へと入ってくる。
そしてスクールバッグを由乃に手渡した。
「ど、どうも……」
由乃ってば、初対面の人と話すの苦手すぎでしょ。
目も合わせられずもじもじしている。
「…………」
ほらおかげでそっちの女子もどうしたらいいか悩んでるじゃない。
ま、ここは俺が助け舟を出してやりますかね。
「きみが見学に来たって子?」
「見学? 何それ?」
由乃が俺に訊いてくる。
「特研の見学だよ」
俺がそう答えたら由乃は急に叫び出した。
「はぁ~⁈ 何それ! 聞いてないし! なんで部長に知らせないの、ショウ!」
「いや、知らせようとしたらスクールバッグ飛んできて今この状態なんだけど?」
「…………」
ぐうの音も出ないようだ。
由乃は少し黙ってそれから。
「ほんと……ごめんなさい……」
そう言って頭を下げた。
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