放課後、いつも通りのんびり部室に行く。

 あれ?

 体育館入るといつもは由乃の声が聞こえてくるんだけど、今日はやたら静かだ。

 もしかして来てなかったりするのかな?


「どもー」


 部室のドアを開けると由乃の姿があった。


「なんだいるんじゃん。妙に静かだから今日は休みなのかと思ったよ」


 そんなことを言いながら部屋に入る。

 ちなみに今日は二年生は校外学習があるから遼は遅くなるらしい。


「ショウ、ちょっと今静かにしといて、作業中」


 由乃は俺の方を見ずにそう言った。

 ため息をついて隅にあるイスに座る。

 俺が来た途端それですか。



 由乃は一心不乱にタブレットに何かを打ち込んでいた。

 遠巻きに画面を見てみる。


「……何それ?」

「…………」


 無視かよ。さすがにひどいんじゃない?

 しばらく『マスクド大戦記』をやりながら待つことにした。

 スマホを取り出すとメッセージが来ていた。遼からだ。


『今日、見学者を連れていきます。特研の活動に興味があるみたいです』


 メッセージはそう簡潔に書かれていた。

 ふうん、そんなもの好きもいるもんだねえ。

 ま、これは一応報告しときますか。


「ねえねえ、ユノちゃん」

「…………」

「ちょっとユノちゃーん?」

「…………」

「ユーノーちゃーん‼」


 耳元で大声で叫んでやった。


「あー、もう‼ 静かにしてって言ってるでしょ‼」


 由乃は大声でそう言うと、俺にスクールバッグを投げつけてきた。

 まったく、大した暴力女だよ。

 まあこんなの、寝てても避けられるんだけどね。

 それで俺は避けたんだけど。




「うわっ‼」


 誰かの悲鳴が真後ろで聞こえた。

 由乃と俺はとっさに振り返る。

 その視線の先には――


「ちょっと由乃先輩。何投げてるんですか?」


 あきれ返っている遼の姿と――


「なんか……すごいね……」


 そう言って苦笑いを浮かべ、由乃のスクールバッグを抱えている女子の姿があった。

 由乃はしばらく何も言わずに目をまん丸にしていたが、やがて口を開いた。


「……誰?」


 おいおい。


「由乃先輩、まずは謝ったらどうです?」


 遼が大きなため息を一つついてからそう言った。

 ナイス。


「ああ、そっか。……当ててしまって……ごめんなさい……」


 謝られた女子はコクリと頷いて部室へと入ってくる。

 そしてスクールバッグを由乃に手渡した。


「ど、どうも……」


 由乃ってば、初対面の人と話すの苦手すぎでしょ。

 目も合わせられずもじもじしている。


「…………」


 ほらおかげでそっちの女子もどうしたらいいか悩んでるじゃない。

 ま、ここは俺が助け舟を出してやりますかね。


「きみが見学に来たって子?」

「見学? 何それ?」


 由乃が俺に訊いてくる。


「特研の見学だよ」


 俺がそう答えたら由乃は急に叫び出した。


「はぁ~⁈ 何それ! 聞いてないし! なんで部長に知らせないの、ショウ!」

「いや、知らせようとしたらスクールバッグ飛んできて今この状態なんだけど?」

「…………」


 ぐうの音も出ないようだ。

 由乃は少し黙ってそれから。


「ほんと……ごめんなさい……」


 そう言って頭を下げた。




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