「いつも言ってるけど、我らが特研は今、危機的状況に陥っているの!」


 由乃は咳ばらいを一つしてから仰々しく語り始めた。


「何もしていない部活の代表格として生徒のみならず先生たちからも冷たい目で見られてるし! 新入部員も来ないし! 補助金出ないからお金もないし! もうお金なさすぎてベルトすら作れないよぅ……」

「先輩、その話はもう五十回以上聞いてます。もっと実のある話をしましょう」


 遼が延々と続きそうな由乃の話に待ったを掛ける。


「手っ取り早いことを言えば廃部だね」


 俺はいつものようにそう提案する。

 だってそれが一番利口でしょ、普通に。


「もうショウ、またそんなこと言って……」

「だって三人しかいないような部活に未来ないって。それに俺たち、あと半年したら卒業だよ?」

「そうだけど……」


 由乃はうつむいてしまう。

 かわいそうだけど、もう少しネガティブ要素、足しとこうかな。


「考えてもみなってユノちゃん、俺ら受験生だよ? ここでいつまでもヒーローに夢中になってたら大学受からないの確定だよ? 浪人してまでこの部活、続ける意味ある?」

「ある!」


 由乃は間髪入れずにそう言った。


「あるに決まってるじゃん! だって、ヒーローはあたしの夢だもん! ヒーローを自分で作ることが、あたしの夢なんだもん!」


 彼女が必死で訴える様子に思わず笑ってしまう。


「ちょっとー、人が真面目に話してるのに何笑ってるの?」

「いやー、ねえ、ユノちゃんらしいなって思ってさ。ねえ、リョウくん?」

「はい、由乃先輩は熱すぎます。一緒にいて恥ずかしいです」

「むう……」


 由乃はまたむくれてしまった。

 そんな彼女に俺は尋ねる。


「それでさ、ユノちゃん。作戦会議っていうくらいだから、作戦あるんだよね?」


 由乃は不敵に笑って一枚のプリントを机に叩きつけた。

 そこには『マスクド戦士コンテスト』と書かれている。


「なんですか? これ」


 今度は遼が訊く。


「何? って……見れば分かるでしょ。『マスクド戦士コンテスト』だよ!」

「それは分かります。その内容が知りたいんです」

「んっとね……」


 由乃はスマホで要項を見ながら説明し始めた。


 彼女の話をかいつまんで話すと、『マスクド戦士コンテスト』っていうのは、ヒーローに変身してそのかっこよさを競うコンテストらしい。

 金賞になるとそのヒーローのビジュアルがそのまま次の『戦士シリーズ』の主役戦士のビジュアルになるんだって。

 もちろん賞金も出るとのこと。


「どう? どう? 参加しようよ!」

「無理でしょうね」


 由乃は嬉々として提案したが、遼に即刻、反対されている。


「確かに最近の科学技術の進歩で、複雑なプログラムや配線を組めば一般人でも変身できるようになりました。ですがそれは専門家がいてこその話です。特研では無理です」

「やってもいないのに、無理だとか決めつけちゃダメだよ!」

「挑戦することすら無謀だと言いたいんです」


 二人は難しい顔をして睨みあってしまった。

 こうなると長いんだよね、二人とも頑固だから。ていうか今日中に結論出なさそう。


「あのさ、俺、先帰るね」


 そう言い残して、俺は部室を後にした。


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