2
特研の部室兼活動場所は体育館の隅っこにある。
そのドアを開けると、少し埃っぽい空気と共に、タブレットで映像を見ている青年の姿が目に入った。
「ああ、由乃先輩と翔矢先輩。遅かったですね」
「リョウくんこそ、毎日早いね」
彼は
学年は一つ下で俺たちにとっての唯一の後輩で、ベルトとかのガジェットはだいたい彼が作ってくれる。
なんでも、あの世界の車メーカー『トヨダ』の御曹司だとかなんとか。
だからそういう工学系は得意なのかね。関係あるか分かんないけど。
現在、特研のメンバーはここにいる三人。
役割としては部長の由乃、メカニック担当の遼、見学の俺、といったところかな。
由乃は遼が見るタブレットを覗き込んで満足げに頷く。
「『戦士シリーズ』見てるんだね。感心感心。今どの辺?」
「ベルセルクがクリムゾンになったあたりです」
そう言いつつ、遼はわざわざ映像を巻き戻して由乃にも見える位置にタブレットを置いた。
『戦士シリーズ』というのは、とある普通の青年がひょんなことから”マスクド戦士”に変身することになり、世界の平和を守っていく、という物語の『マスクド戦士オーディン』から始まる一連のシリーズだ。
特撮ヒーローなだけあって子供からの人気はすさまじいが、このシリーズ特有のシリアスな展開や伏線回収に魅かれる大人たちからの支持も絶大だ。
ちなみに由乃はこのシリーズの大ファン。ここだけの話、彼女が『戦士シリーズ』の話してるときって圧がすごすぎて怖いんだよね……
それで、今、放送されているのは確か……
「『俺はベルセルク! 世界の均衡は俺が守る!』」
そうそう『ベルセルク』。
由乃が映像に合わせて決め台詞を叫んでるから思い出したよ。
でもさ、叫ぶならせめて部室のドアくらい閉めた方がいいよね。
今のたぶん体育館中に響いてたよ。
そんなことはさておき、その『マスクド戦士ベルセルク』がこれまた良作らしくて、毎週土曜夕方のオンエア後はツイスタ――俺たちがよく使うSNS――の世界トレンド一位になってるんだよね。
俺は『戦士シリーズ』自体、小学生で卒業しちゃったから見てないんだけど、由乃だけじゃなくて遼まで夢中になってるんだからたぶん面白いんでしょうね。
さてと、二人が『戦士シリーズ』見てる間、俺は『マスクド大戦記』でもやってますかね。
「やっぱ『ベルセルク』は何度見ても燃えるね!」
「はい。”クリムゾン・マッド・インパクト”は『戦士シリーズ』でも屈指の必殺技だと思いますよ」
「やっぱり? そうだよねそうだよねー。やっぱりリョウ、いいセンスしてるよー。それにしてもさ、『ベルセルク』ってほんっとに毎回面白いよね! 監督が良いのかな?」
「
しばらくすると、二人は興奮した様子で話し始めた。
どうやら見終わったみたい。
こうやって話し出しちゃうと二人とも熱が冷めるのに時間かかるから面倒なんだよね。
しょうがないから早めに鎮火しないと。
「ねえねえユノちゃん、さっき作戦会議するって言ってなかった?」
俺がそう声を掛けると、由乃は一瞬固まった後騒ぎ出した。
「そうだった! 聞いて、リョウ! 大変なんだよ!――」
やれやれ、やっと話し合いが始まる感じかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます