Process1 ヒーローはあたしの夢

 放課後。

 校舎に囲まれた中庭にある、少し大きめの木の下に座った。

 先週、二学期が始まってからの日課なんだよね。




 それにしても、もう夏休みが終わったというのに暑い。

 俺としては九月はもう秋だと思っているんだけど。




「さてと……」


 スクールバッグからスマホを取り出し、『マスクド大戦記』のアイコンをタップ。

『マスクド大戦記』っていうのは最近、俺がハマっているゲームアプリ。他のユーザーとオンラインで対戦できたりして楽しいんだな、これが。ストーリーモードのシナリオもちゃんとしてるし。




 しばらくゲームに没頭していると、急に目の前が真っ暗になった。


「んなっ……!」

「だーれだ」


 そう尋ねる声は俺が毎日聞いている声だ。


「ユノちゃん、それやめてっていっつも言ってるでしょうが」




 俺に目隠しをしてきたのは水谷由乃みずたにゆの

 彼女とは幼稚園のときからの仲だ。家も近くて家族ぐるみの付き合いがあったりする。

 まあ言ってしまえば、近所に住んでる幼馴染の同級生、といったところだね。




 そういえば、俺のこと話してなかったっけ。

 俺の名前は上田翔矢うえだしょうや

 東名古屋高校普通科三年C組。成績は中の下? 下の上? 友だちはクラスに一人か二人。スクールカーストは確実に最下層。

 でも我ながら自分にまったくいいところがないわけでもないって思ってたりもする。ボクシングだったらこの前のインターハイで優勝するくらい強いんだよね、俺って。

 俺のことはそんな感じ。




「だってショウってば、何度も呼びかけてもちっとも気づいてくれないんだもん」


 由乃はそう言って手を俺の目から外し、むくれている。


「だからって目隠しする必要はないでしょ」


 俺が反論すると、由乃は大きなため息をついた。

 それから俺のスマホを覗いてくる。


「あー、またゲームしてるー」

「ユノちゃんもやる? 『ベルセルク』も出てるよ」

「えっ、ほんと⁈」


 由乃は目を輝かせる。でもすぐにまたため息をついてうつむいてしまった。


「……でもそれどころじゃないよ」

「そうなの?」

「そうなの? 、って……もうっ!」


 由乃は不満そうな顔をして説明してくる。


「いつも言ってるでしょ! 今は、我らが特研は今世紀最大のピンチなの!」




 特研、というのは俺らが所属している特撮研究部の略称だ。

 活動内容は読んで字のごとく、特撮ヒーロー作品についての研究。その過程の中で変身ベルトとか、武器とかの開発もしたりしている。

 由乃の話によると五年前くらいにできた部活みたいだ。


 一応、俺はボクシング部所属なんじゃないかと疑問に思った人のために説明しておく。

 俺は幼少期から地元のボクシングジムに通っているから別に部活としてボクシングしていたわけじゃないんだよね。そもそも東名――東名古屋高校、略して東名とうめい――にはボクシング部ないし。

 だから俺は一年のときから特研の部員だってわけ。別に積極的に活動はしてないけど。




「ピンチ? どんな?」

「お金がないの!」


 由乃は俺の肩を掴んで揺さぶりつつわめきだす。


「だから先生に補助金の申請したら『結果も出してない部活にお金なんて出せない』って言われちゃったし――」


 そりゃあそうでしょ。傍から見れば遊んでるだけなんだから。

 ていうか肩から手離してくれないかな。ほら、周りが好奇の目で見てきてる。

 でも由乃はそんなことは気づいてないようだ。


「しかもしかも! 『今度のコンテストで入選しなかったら廃部だ』って言われちゃったんだよおー‼」

「分かった、分かったから落ち着いてユノちゃん」


 由乃の腕を掴んで俺の肩からどけると、彼女はやっと周りから見られていることに気づいたみたいだ。


「とっ、とにかくっ、ほらショウ、部室行くよっ! これから作戦会議なんだから!」


 俺は逃げるようにその場を後にする由乃の背中を追った。






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