8-6 合間

 手すりを飛び越え、ハヌマンは階段を駆け上がる。

 悲鳴。

 銃声。

 床の血痕。

 そして死臭。

 急がねばなるまい。

 上階に行くにつれて人の気配が増えていく。

 最上階への階段を上りきる直前、誰かがこちらへ向かってくるのを感じた。

「逃げ……」

 片腕を失った警官がハヌマンに向かって叫び、絶命した。

 背中に受けた矢が心臓を貫通していた。

 矢を放った少年は、既に奥の部屋へと消えている。

 ハヌマンは廊下を駆け抜ける勢いのまま、大会議室と書かれたそのドアを蹴破った。


 そこにいたのは、金色の少年リウと、全身に無数の腕を生やした怪物。

 警官の生き残りと、死体。

 壁を走る少年の弓から放たれた矢を怪物が躱し、生きた人間に飛びつき、その腕を引きちぎる。

 もがれた腕は怪物の身体に植え付けられ、魚のように痙攣した後、怪物の一部となった。

 さらに怪物は別の警官に飛びかかる。

 だが、腕をもがれる前にその警官は頭部に矢を受けて死んでいた。

 怪物は腕を掴むのをやめ、恐るべき剛力でその死体をリウに投げつける。

 リウは床をすり抜けてそれを躱し、別の場所から現れ、また警官を射殺す。

 彼らは殺し合いと虐殺を同時に行っているのだ。

 ハヌマンは思考する。

 あの怪物は生きた人間の腕のみを狙っているようだ。

 だからこそリウは、怪物の餌食となる人間を予め殺しているのか。

 であれば、やることは一つ。

「まだ生きている者は、今すぐ逃げろ」

 出口を守るように腰を落としながら、ハヌマンは声を上げた。

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