7-5 我慢

 声もなく悶える異形の前で、ヒズミは立っていた。

 立ったまま、震えていた。


 くふ。

 だめだ。

 いけない。

 戦いの最中に笑ってはいけない。

 人を傷つけて笑ってはいけない。

 そう言われた。

 笑ってはいけない。

 そう言われたから。

 でも。

 くふふ。

 でも、目の前にあるのは人形じゃないか。

 遊び道具じゃないか。

 こんな楽しい物があるのに。

 我慢なんて。

 くふ。

 我慢できない。


「あはははははは!」

 ヒズミの笑い声が響く時、少女は既に異形の腕を駆け上がっていた。

 そのまま顔に飛びつく。

 ヒズミの両腕から突き出た鉤爪が、異形の頭部をがっちりと固定した。

 身体を猫のように丸めた少女の踵からは、錐状の金属が真っ直ぐに伸びている。

 それを異形の両目に、突き刺した。

 何度も突き刺した。

 人形が頭を砕かれて動かなくなるまで、ヒズミの笑い声は響き続けていた。

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