7-4 仏殿

 ハヌマンの持つ特殊警棒は、通常の物より遥かに大きく、重い。

 拳では壊せぬ物を破壊するための特注品。

 それはまるで黒い鉄の柱である。

 左から異形の腕が迫る。

 ハヌマンは一歩退く。

 回避と同時に、警棒で打つ。

 また一歩退き、打つ。

 手が来れば手を打ち、足が来れば足を打つ。

 気づけば山門のある場所まで戻っていた。

 反対側には仏殿がある。

 響き渡るのは石を削る警棒の音のみ。

 いずれその手足が砕けて動けなくなるだろう。

 それまでこの鈍重な攻撃を躱し続けていればいい。

 ハヌマンはそう考えていた。


 だが、間もなくして気づく。

 削った部分が、戻っているのか。

 警棒で削った部分が白い塵となって霧散する。

 確かに傷は付く。

 だが、いつまで経っても砕ける気配が無い。

 白い粉末。

 再生。

 なるほど。

 ハヌマンは下がるのをやめ、警棒を後ろ手に回しながら腰を落とした。

 

 異形が石の拳を繰り出す。

 ハヌマンも警棒を突き出して迎え撃つ。

 轟音。

 石床が割れる。

 巨大な拳を正面から受けた警棒が、杭のように地面に刺さっていた。

 既に、ハヌマンは敵の下に潜り込んでいる。

 狙うは肘関節。

 伸び切った腕の継ぎ目を、ハヌマンが垂直に蹴り上げる。

 石の関節がミシミシと軋んだ。

 だが破壊するには至らない。

 一撃で腕を折らなければ、次のチャンスまでにまた回復されてしまうだろう。

 かといって無理な追撃はできない。

 異形の腕に掴まれればハヌマンとて無事では済むまい。

 石の頭がぐるりと動いて、矮小な人間を見下ろした。

 その時。

「やあッ!」

 上空から現れたヒズミが、異形の腕めがけて膝と拳を突き立てた。

 砕かれた異形の左腕が地面で跳ねて、転がった。

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