7-3 吸着

 踏まれた砂が跳ねる。

 ウォルフは透明化したまま異形に接近する。

 頭部と胸に銃弾を撃ち込む。

 だが倒れる気配は無い。

 直後、異形の腕が周囲を薙ぎ払う。

 ウォルフは後方に退いて躱す。

 肌に感じる風圧は、異形の一撃が致命的な威力を伴っていることを知らしめた。

 当たれば簡単に骨が砕けるだろう。

 間髪入れずに異形が飛びかかる。

 横に転がって回避するウォルフ。

 透明化していても足元の砂で動きが読まれてしまう。

 幸い、敵の動きは鈍重だ。

 そのまま至近距離から異形の膝を撃つ。

 残弾を全て叩き込む。

 不意に、石人形が大きくのけぞった。

 怯んだか。

 否。

 次の瞬間、重厚な石の頭がウォルフめがけて振り下ろされた。

 衝撃で砂が高く舞い上がる。

 その一撃を、ウォルフはかろうじて避けていた。

 だが。

 追撃の蹴り上げをまともに食らったウォルフの身体は、サッカーボールのように吹き飛んだ。


 目の前に、青空が広がっている。

 なんてざまだ。

 もっと慎重にいくべきだった。

「痛えな、クソ」

 苦しげに上体を起こしながら、ウォルフはマガジンを取り替える。

 その時、手元に何かが落ちた。

 金属の、分厚い円盤のような物体。

「吸着式だ。使うといい」

 ラカが廊下からこちらを見下ろしていた。

「あるなら先に出せよ」

 ウォルフはそれを手に取って立ち上がり、音もなく姿を消した。

 迫る異形の動きが鈍る。

 やはりそうだ。

 こいつは生物と同じように視界を持っている。

 それだけじゃない。

 片足に、体重がかかっていない。

 さっき銃弾をしこたま撃ち込んだ方の脚だ。

 膝を、庇っているな。

 つまりこの石人形は単に操られているわけではなく、感覚を持って意識的に動いている。

 その可能性が高い。

 なら、やることはいつもどおりだ。


 再びウォルフが駆ける。

 振り向きざまの横薙ぎが来る。

 だが既にウォルフは異形の真下に潜り込んでいた。

 壊れかけの膝を撃つ。

 撃つ。

 撃つ。

 異形がよろめきながら後ろに退いていく。

 否、これは予備動作だ。

 石のボディプレス。

 衝撃で庭が揺れる。

 周囲の砂が大きく舞い上がり、視界を塞ぐ。

 やがて見えてきたのは、うつ伏せに倒れる異形の姿。

 その背中に、円盤のような物体が取り付けられている。

 吸着爆弾である。

 次の瞬間、凄まじい爆風が庭の砂を飛び散らせ、辺りを煙と粉塵で包み込んだ。


 無音。

 静寂。

 全ての雑音が爆風で吹き飛ばされたかのようだった。

 やがて、庭の視界が徐々に晴れてくる頃。

 煙の中から這い出てくる何かがあった。

 下半身を失った異形だ。

 それを見下ろすのはウォルフ。

 間もなくして首を踏み砕かれた異形は、糸が切れたように活動を停止した。

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