7-2 土塀

「どこから話したものか…………その昔、私には妻がいてな」

「おい――」

 ウォルフが老人の話に口を挟みかけたところを、ハヌマンが静止した。

 この男に何を言っても話が逸れるだけだ。

「いい女だったが、まあ別れることにした。一方的な話だったから随分と恨まれたよ」

「離婚かあ」

 ヒズミが呟く。

「それが今回の一件につながっている」

 ラカはそう言った。

「意味がわからないな」

 不満げなウォルフ。

「詳しく説明してやりたいところだが、時間が無くてな」

「さっきまで庭見てぼーっとしてたろ」

「時間が無いのは君たちの方だよ」

「はあ?」

 ウォルフが声を上げたその時。

 異変に気づいたのはハヌマンだった。

「そこまで来ているぞ」


 四人の視線の先にあるのは、庭の向こうの土塀。

 それを這い上がり、越えてくる二つの異形。

 灰色の腕。

 灰色の頭。

 灰色の胴。

 灰色の脚。

 ゴリゴリという聞き慣れぬ音は、硬い物体同士が擦れる音だ。

 体が、石で構成されているのか。

 長い手足を動かして庭に降り立つ様はまるで蜘蛛のようだった。

 そのうち一体は右腕が根元から欠損している。

「欠けてる方は俺がやる。ヒズミはそっちのでかい人に付け」

 ウォルフは大口径の拳銃を携えて走り出す。

 ハヌマンとヒズミも続く。

 ラカは座ったまま、その光景をつまらなそうに見ている。

 この状況を予知していたかのように。

 あるいはその結末すらも。


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