6-3 白い花

 ハヌマンが四件目の調査を終えて次の拠点へと向かっている時のことだった。

 暗く長い一本道の向こうに、複数の人影が行く手を阻むようにうごめいている。

 左右に迂回路は無い。

 待ち伏せには格好の場所だった。

 背後から気配。

 二人、歩いてくる。

 足音は極力消しているようだが、ハヌマンの並外れた聴力は鮮明にそれを捉えている。

 否、聴力だけではない。 

 視力も、嗅覚も、筋力も、敏捷性も、人体の全てにおいて常人を遥かに上回る性質を持つ。

 それがハヌマンの能力であった。

 

 数分後。

 裏路地に、鈍い打撃音が響いている。

 最後の刺客にとどめを刺す直前で、ハヌマンの拳がぴたりと止まった。

「ここで何をしているのです」

 目の前に、一人の女が立っていたからだ。

 白いドレスを纏ったその女は、一輪の白い花を模した大きな帽子を被り、非生物的な冷たい笑みを浮かべている。

「ダリア」

 ハヌマンは女の名前を呼ぶ。

「何をしているのです」

 ダリアは再び問う。

「……調査だ」

「私は、お前に何を命じましたか」

 ダリアがその不気味な薄ら笑いを崩すことはない。

 それはまるで呪われた人形のように、あるいは顔に縫い付けられた仮面のように、ずっとそこにあるものだ。

「不自然な薬物取引の背景を探れと言われた。だからこうして調べている」

「凡愚が」

 ハヌマンの弁解に、ダリアが罵倒で返す。

 彼女の横を、刺客の生き残りが逃げ去って行った。


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