5-5 校門

 運動場から校舎を挟んで反対側にある校門。

 人影は無く、近くを通り過ぎる者も見当たらない。

 やがて、白い塀に無数の黒い影が浮かび上がった。

 門に設置された侵入防止用センサーがそれを捉えることはない。

 影は音もなく塀を乗り越え、次々と敷地内に降り立った。


 構え。

 展開。

 クリアリング。

 動きを見れば、彼らが十分に訓練を積んだ部隊であることがわかる。

 ライトを持たないのは、暗視スコープを装備しているからだ。

 影たちはそれぞれの銃口を周囲に向け、ゆっくりと前進していく。

「うッ」

 短い呻き声。

 一人が倒れた。

 影の集団は前進を停止し、周囲への警戒を保ったまま状況確認を行う。

 倒れた隊員は出血していた。

 膝を撃たれたのだ。

「こんばんは」

 どこからか声が聞こえた。

 影たちは互いに背中を預けるようにして辺りを見渡すが、誰もいない。

 そのうちまた一人が倒れた。

 今度は肘を撃ち抜かれていた。

 別方向からの銃撃だった。

 どさり。

 一人倒れる。

 また一人。

 微かにサイレンサーの音が聞き取れるが、襲撃者の姿を捉えることはできない。

 1km以上先の狙撃手すら見逃さない暗視スコープをもってしても、である。

 必死に周囲を見回しているうちに、同じペースで一人ずつ倒れていく。

 いつしか校門の上には赤髪の青年が腰掛けているが、もはや誰もそれに気づかない。

 間もなくして、無傷の隊員は一人だけとなった。

「急所は外してあるからさっさと救急車でも呼びなよ。おつかれ」

 言いながらウォルフは最後の男から無造作に銃を取り上げ、そのまま闇の中へと消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る