5-4 アーチ
瞬間移動。
デルタが振り返ると同時に、セツナは体勢を低めて足払いをかける。
うつ伏せに倒れるデルタ。
その背中にセツナが馬乗りになる。
狙うのはヘッドホン。
だが、デルタはうつ伏せのまま背後に向かって拳銃を構えていた。
放たれた銃弾がセツナの頬をかすめる。
その隙にデルタは膝立ちになり、振り向きざまにナイフを振り抜く。
セツナはヘッドホンの奪取を諦め、瞬間移動で距離を取る。
ゆらりと立ち上がるデルタ。
その正面に鉄壁が展開される。
壁で跳ね返ったのは、投げつけられた黒い鞘。
その時、運動場に土埃が舞い上がる。
壁の死角を利用して、シキが背後に向かって回り込んでいたのだ。
走りながら地面のアサルトライフルを拾い上げるシキ。
そこから放たれる弾丸は全て鉄壁によって防がれ、デルタには届かない。
シキは刀を抜き、デルタめがけて疾走する。
その残像は直線ではなく、大きなアーチを描いていた。
デルタは頭上のシキに向かって拳銃を構える。
だがそれは、死角から放たれた別の銃弾によって撃ち落とされた。
「動かないで!」
壁の上に立つセツナは、サブマシンガンを構えている。
デルタが捨てた一丁だ。
デルタはもう一方のサブマシンガンを手元に引き寄せるが、シキがそれを刀で叩き落とす。
その隙に背後に飛び降りるセツナ。
デルタは立ち尽くしている。
セツナはサブマシンガンを構えたまま、ゆっくりと接近する。
その時、何かが地面に落ちた。
手榴弾。
「違う、スモークだ!」
シキが叫ぶ。
セツナが躊躇した一瞬、デルタは後ろ蹴りを繰り出す。
鉄壁に衝突するセツナ。
瞬く間に、白煙が辺りを覆い尽くした。
シキはセツナの救助を優先していた。
目や呼吸器を守るマスクが無いため、手探りで彼女を探し当てるしかなかった。
涙を流しながら咳き込むセツナを、シキが引きずるように壁の外側に誘導する。
身を寄せ合う二人の背後、煙の中にデルタが立っていた。
ガスマスク越しの冷たい視線を少女らに浴びせながら、デルタは静かに拳銃を構えた。
だが、その銃弾が放たれることはなかった。
次の瞬間、デルタの身体は吸い寄せられるように壁に衝突していた。
シキの手元からは、かすかな光が一本の筋となって伸びている。
ワイヤーだ。
シキの刀と、投げられた鞘は、細いワイヤーによって繋がれていたのだ。
煙を振り払うように刀を構え直し、シキはゆっくりとデルタに近づいていった。
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