5-3 目論見

 マズルフラッシュが闇夜を裂く。

 土埃が舞い上がる。

 着弾点に二人の少女はいない。

 セツナとシキが左右からデルタに迫る。

 デルタはアサルトライフルを無造作に捨てた。

 新たに現れたのは、二丁のサブマシンガン。

 デルタがその引き金を同時に引くと、一際けたたましい音が辺りに響いた。


 弾道を黒い風が逆流する。

 高速移動するシキから繰り出される刀の切っ先を、デルタの呼び寄せた鉄壁が阻む。

 シキは勢いのまま壁面を蹴って飛び越える。

 そこにはサブマシンガンの銃口が待ち構えていた。

 同時にセツナが動く。

 側面でも背後でもなく、セツナはデルタの肩に右手を乗せた逆立ちの姿勢で出現した。

 セツナの重みでデルタの体勢が僅かに崩れ、銃撃が逸れる。

 その隙にシキはデルタの顔面めがけて飛び蹴りを繰り出す。

 デルタは肘でそれを受け、さらにもう一方のサブマシンガンでシキを狙う。

 その瞬間、セツナは背後からデルタのフードを掴み、力任せに投げ飛ばした。

 地面に叩きつけられるデルタ。

 露わになったのは、空色の頭髪と、素顔。

 そして。


 二人の少女は速やかにデルタを離れ、校庭の木の陰に腰を下ろした。

「案外、単純な仕掛けだったみたいだね」

 シキは木の幹から顔を僅かに覗かせる。

 こちらに向かって歩いてくる少年の両耳には、ヘッドホン状の装置が取り付けられていた。

「声で操ってる?」

 隣でセツナが囁く。

「さあどうだろう」

 シキもまた囁き声で返す。

 以前、シスターはデルタの記憶を消去したと言った。

 その効果が無かった、とも。

 本当にデルタの記憶が消えているのなら、なぜ彼はセツナとヒズミを狙い続けるのか。

「もしデルタが外部から絶えず干渉を受けているのだとしたら、その媒体を破壊すればいい。それから、作戦が失敗した時の覚悟もしておこう」

 シキは刀の鍔に親指を掛け、じわりと鯉口を切った。

 デルタを救えなかった時は、殺して終わらせると言っているのだ。

 セツナは無言で拳を握りしめる。

 やがて、サブマシンガンから放たれた銃弾が木の幹をえぐり、夜空には二つの影が舞った。

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