第5話

5-1 不敬

 等間隔に並んだ机と椅子が、月光に照らされている。

 チョークで書き込むための黒板は今や全面的に撤廃され、一回り小さいディスプレイが壁に取り付けられているのみだ。

「俺がガキの頃には、机なんてどれも落書きだらけだったもんだがね」

 窓際の席に腰掛けた半裸の男は、目の前にある真っ白な机を撫でた。

 プリーストだ。

「とっくの昔に電子化されたんだよ。今はノートもペンも使わない」

 教室の入り口に、ウォルフが立っていた。

「リベンジに来たんなら勘弁してくれ」

 プリーストは窓の外を眺めながらそう言った。

「……先輩に殴られたよ」

 ウォルフも窓際まで歩み寄る。

「あんたは俺のことを傲慢だと言ったよな。ようやくその意味がわかった気がするよ」

「ほう」

「暗殺者として生きるということは、無限の成功を積み重ねるということだ。失敗と死は同じだからな」

 ウォルフは左目の眼帯を指で撫でる。

「だから俺は、自分の生をそのまま正義として受け入れてきた。神が俺の正しさを認めているんだってね。いや、自分こそが神だと信じ込んでいたのかも知れないな」

「そりゃ不敬だ」

 プリーストの笑い声が響く。

「屈辱だったよ。しくじって死ぬならまだしも、負け犬として生かされたんだから」

 そう言ってウォルフも同じように笑った。

「俺を恨むかい」

 プリーストが問う。

「あんたは人殺しだからね」

 ウォルフが答える。

「それもお互い様だろうに」

 プリーストはまた笑った。


 いつしか彼らは、校庭のグラウンドを見下ろしている。

 広く均された地面の中央には、少女の影が二つ。

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