4-4 名前

「……殺してやる」

 声が聞こえた。

 誰の声だ。

 聞き覚えのある声だ。

 親しみある声だ。

 それは私だ。

 私の声だ。


 セツナは直立していた。

 通路の中央に立ち、襲撃者を見据えていた。

 銃弾が迫る。

 セツナは口元に邪悪な笑みを浮かべながら、鉛玉の一つ一つを躱すような瞬間移動で通路を駆け抜ける。

 そしてあっという間に距離を詰めると、少年を押し倒し、首に両手の指を回した。

「死ねよ、お前」

 相手の首を絞めながらセツナが笑っている。

「ブラックアウト。お前を排除する」

 少年の声には、感情の存在がまるで感じられなかった。

「ちッ」

 不意に、セツナが退いた。

 少年がゆらりと立ち上がる。

 彼の手には、サバイバルナイフが握られていた。

 セツナは切り裂かれた服など意に介さず、地面に落ちたマシンガンに飛びつく。

 だが、少年の投げたナイフがそれを妨げた。

 そして驚くべきことに、既に少年の手には別の刃物が握られているのだ。

 少年は手にしたサーベルで斬りかかる。

 セツナは仰向けに倒れ込んで斬撃を躱しつつ、少年の手元を蹴り上げる。

 サーベルが宙を舞って、落ちた。

 それからは、一瞬だった。

 一瞬のうちに、少年はマシンガンの銃口をセツナに向けていたのだ。

 片足で彼女の腹を踏みつけたまま。

 そして激しい音が、辺りに響き渡った。


 シキはマシンガンを切断した後、欠けた黒い刀身を見てため息を吐いた。

「はじめましてかな、デルタ」

「どけ」

 デルタと呼ばれた少年は、フードの奥でシキを冷たく睨んでいる。

「君がどきなよ。女の身体に足を乗せるもんじゃない」

 シキは刀の切っ先をデルタの喉元に向ける。

 その僅かな隙を突いて、セツナがデルタを蹴り飛ばし素早く立ち上がった。

「アポート能力だよ。物体を引き寄せられるのさ」

 シキは背後に立つセツナに向けて言った。

 セツナは息を切らしたまま、地面に落ちたナイフのもとに瞬間移動すると、それをデルタめがけて投げつける。

 だが、デルタのすぐ側に突如出現した鉄の板切れがそれを弾いた。

「今は退こう、セツナ」

 シキが刀を納める。

 デルタの手には新たな小銃が出現している。

 その銃口の先にいるのは、顔を押さえながら呻く少女。

「黙れ。私はセツナじゃない……私に……名前なんか無い」

「ブラックアウト。お前を排除する」

 デルタは躊躇なく引き金を引く。

 銃弾は黒い風を突き抜けて地面に当たった。

 風とは、シキの残像だ。

 教会から離れた茂みの中で、少女はシキの腕の中で気を失っていた。


 その時、デルタは既に別の対象へと銃を向けていた。

 教会の前に立つ少女、ヒズミである。

「スキュラ。お前を排除する」

 デルタは、そう言った。

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