第4話

4-1 眼帯

 リンはドアを閉め、部屋を見渡した。

 棚やテーブルやソファなど一通りの家具は置かれているが、どこか生活感に欠けているようにも感じる。

 窓にはブラインドが設えてあり、それがむき出しのコンクリートと合わさって殺風景な空間を一層演出していた。


「まさにセーフハウスって感じだな」

「……何の用だよ」

 部屋の隅に置かれた椅子の上でうなだれたまま、ウォルフはリンの足元を睨んだ。

 その左目を覆う黒い眼帯からは、赤い火傷の痕が根を張るように広がっている。

「うちの部下と連絡が取れなくてな。何があった?」

 リンはソファに腰を下ろしながら言った。

「なんで俺に聞く」

 ウォルフが覇気のない声を返す。

「あいつと最後に接触したのがお前だからだ」

「…………」

「お前ら二人がいろいろと嗅ぎ回っていたのも知ってる。これでも諜報担当だからな」

 リンはテーブルの下に手を伸ばすと、天板の裏に仕込まれた拳銃を取り出して弄び始めた。

「あんたは気楽でいいよな。命のやりとりもせずに正義を気取ってさ」

 ウォルフは相変わらず目を合わせようともしない。

「俺の話はどうでもいいんだよ」

 リンが笑って返す。

「どこかで死んでるんじゃないの。あんたと違って不死身じゃないんだから」

「……やれやれ、これ以上は時間の無駄みたいだな」

 リンは立ち上がってウォルフに歩み寄り、拳銃を差し出した。

「ほら」

「…………」

 ウォルフは動かない。

「……もう一度だけ聞く。シキはどこだ」

「さあね」


 殴り飛ばされたウォルフは、コンクリートに激しく打ち付けられた後、ずるずると壁を滑り落ちて床に転がった。

「ナメんなよ。ガキが」

 リンは静かに吐き捨てながら、拳銃を放り投げた。

 ウォルフは口の端から血を流したまま、虚ろな表情で身体を横たえている。

 そうしているうちに、ウォルフのぼやけた視界からリンはいなくなった。

 ドアの向こうからは、話し声が聞こえる。


「何か出たか?」

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