3-6 友達

 生暖かい夜風が部屋の中に入り込む。

 シキは目の動きだけで室内を見渡す。

 人影は無い。

 だが、とっさに隠れられる場所など限られている。

「参った。降参する」

 背もたれにガラス片をびっしりと生やしたソファの陰から、男が頭の後ろに両手を回した姿勢で立ち上がった。

「君がプリーストだね。少し話を聞きたいんだけど、いいかな」

 右手に刀を携えたままシキが問う。

「拒否権があるなら行使したいね」

 プリーストは不敵に笑みを浮かべている。

「…………右腕か左腕。好きな方を残してあげる」

 黒い切っ先が男を睨むように光った。

「怖いなあ」

 おどけるように笑うプリーストの手には、いつの間にか球状に燃える発光体が握られている。

 ジャリ。

 シキが一歩、踏み込む。

 プリーストは頭の後ろに火球を隠したまま少女を見下ろす。


「床に頭をぶつけましたよ」

 不意に響いた女の声が、睨み合う二人を硬直させた。

 シスターは額をさすりながら立ち上がると、無造作にプリーストを追い越してシキと向かい合い、言った。

「聞きたいことがあるのでしょう」

「おい、そいつは――」

 プリーストが口を挟む。

「お友達ですよ。彼女の」

 シスターは少女に向かって手をかざしながらそう言った。

 床に刀身が突き刺さる。

「何を……」

 一瞬のうちにシキの身体は脱力し、刀で体重を支えることもできずに膝を突いていた。

「まずあなたの疑問に答えましょうか」

「…………」

 シキは刀に縋るようにしてシスターを睨んでいる。

「ブラックアウトを殺したのは私です」

 シスターが言った。

 どさり。

 シキは床に倒れ込んだ。

 強烈な眠気が、彼女を過去の記憶へといざなう。


 夜道。

 シキはそこに立っている。

 近くで建物が燃えている。

 ふらふらと歩いていると、道端に何かが転がっているのが見えた。

 少女だ。

 死んでいるのか。

 眠っているのか。

 シキは少女の頬に触れる。

 温かい。

 少女の目が開いた。

 シキは手首を掴まれる。

 少女は苦しんでいるようだった。

 その目には怒りが満ちていた。

 ――殺す。

 ――全員殺してやる。

 少女はそればかりをうわ言のように繰り返している。

 しばらくすると、少女は何かに怯え始めた。

 自分が消えていくのがわかるらしい。

 君はここにいるよと、シキは言った。


 いつの間にか朝日が昇っていた。

 シキの膝の上には、空っぽの器が眠っている。

 シキはその少女をセツナと呼んだ。


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