3-3 荷台
間もなく、周は絶命した。
頸動脈を切り裂かれたことによる失血死である。
公園の利用客は既に避難しており、その惨劇を見た者はいない。
たった一人の傍観者を除いては。
「俺に何か用?」
ウォルフは振り向くことなく、電灯の上に立つ人影に問うた。
「取り込み中みたいだから、少し待ってあげようと思ってね」
人影は音もなく着地しながら、待ちくたびれたような声を上げた。
黒いスーツに身を包む、灰色髪の少女――シキである。
「殺す必要、あった?」
シキはウォルフの周囲を無防備に歩き始めた。
「こいつは中国マフィアの中でも指折りのクズだよ」
ウォルフが死体をつま先でつつく。
「だから?」
「俺がやらなきゃ、遅かれ早かれもっとむごい死に方をしてたって話」
ウォルフはつまらなそうにそう言った。
「業務を遂行する上で対象を殺害せざるを得ないケースは確かにある。ただしそれは周囲の安全確保を優先するという目的においてのみ判断されるべき事であって、相手の罪状は関係無いよ。君は単に悪人が嫌いなだけだろ」
言い終わってからシキは足を止め、ウォルフの方に向き直った。
「はいはい気をつけます」
ウォルフはそっぽを向いて唇を尖らせながら、濡れたナイフを弄んでいる。
それを見てシキがため息を吐く。
年齢こそシキの方が遥かに若いが、警察内部の超能力部隊――フェイサーとしての経歴でいえばウォルフの方が後輩だ。
水道課と福祉課。
部隊こそ違えど、ウォルフの行き過ぎた勤務態度に対して、シキが苦言を呈することはこれまでにも何度かあった。
「わざわざ説教しに来たの?」
ウォルフが問う。
「まさか。君の同僚について話を聞きたくてね」
「同僚?」
「とぼけなくていいよ。福祉課には君とシスターしかいないでしょ」
いつの間にか、シキはウォルフのすぐ目の前に詰め寄っている。
「あの女のことなら知らないよ。一度挨拶に来ただけでそれっきり」
「挨拶?」
「仕事の邪魔はしないからって。後は見てない」
「……それならしょうがないな」
そう言ってシキは風のように姿を消した。
「やれやれ」
尋問から解放されたウォルフは、無線通信で警察に死体処理を命じながら、木陰に停めてあるオートバイのもとへ戻っていく。
そしてウォルフは立ち止まり、心底嫌そうな表情で口を開いた。
「何してるの」
「たまには君の用事に付き合ってあげようと思ってね」
オートバイの荷台には、シキが腰を掛けていた。
「プリーストって、君の友達?」
シキは無邪気な笑みを浮かべている。
「盗み聞きかよ」
ウォルフは彼女に聞こえる声で呟いた。
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