2-6 不死身

「油断した」

 リンは這うように上体を起こしながら言った。

 失血のせいで身体がうまく動かないが、どうやら寝ている暇は無さそうだ。

 すぐ側には、腕から刃物を生やした少女と、今にも首を落とされそうな男が向かい合っているのだ。

 リンが、気怠げに立ち上がる。

 少女はそれを見て嬉しそうに笑みを浮かべた。

「あなたも獲物?」

「うるせえ」

 リンは既に拳銃を構えている。

 そして少女もまた、リンに向き直って腰を落としていた。

 銃声。

 放たれた銃弾が少女の胸を何度も貫く。

 だが、少女は倒れることなくリンに突進し、勢いよくその刃を突き上げた。

 リンは拳銃を盾にして刺突を防ぎつつ、少女を蹴り飛ばす。

 それを呆然と眺めていた男が、ぼそりと呟いた。

「あんたも不死身か……」


 吹き飛ばされた少女がゆらりと立ち上がる。

 暗闇に光る刃は今や一枚だけではない。

 少女の両腕からは湾曲した刃物が、そして両足の踵からもハイヒールのように刃が突き出ていた。

「無茶苦茶しやがる」

 リンが睨む。

「あはっ」

 少女が笑う。

「あははははははははは」

 甲高い笑い声が廊下いっぱいに反響する。

「はははははははははははははははははは」

 笑いながら、少女は病室の中へと駆けていった。


「狩りが始まったんだ……」

 うずくまったままの男は言った。

「いつ殺されるかわからない恐怖を、あの娘はよく知っている……」

「くだらねえ」

 リンは男のうわ言を無視し、絶えず響き渡る少女の笑い声に意識を集中させる。

 声の主は常に移動しているようだった。

 室内を走り回っているのか。

 いや、声が遠のいていく。

 まるで部屋から部屋へと移動しているような――。

「まずい。抜け道があるのか」

 リンは少女が駆け込んだ部屋の扉を勢いよく開いた。

 やはり誰もいない。

 その時。

「あは」

 真後ろから少女の声が聞こえた。

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