1-7 水道課
無数の赤いランプの光が、海と陸を交互に照らしている。
現場の安全確保を終えたセツナは、地面に座り込んで警察の事後処理を眺めていた。
幸い、拉致されていた6人の少女に大きな怪我は無かったそうだ。
犯人のほうは全員が重症だったが、それに関してセツナが警察に問い詰められることはなく、どちらかといえば邪険にされているようだった。
「お疲れ」
誰かがセツナの横に腰を下ろした。
灰色のショートヘアの少女だ。
真っ黒なスーツに身を包んだその少女の左脇には、同じように黒い色をした日本刀が抱えられている。
「シキ」
セツナはぼんやりとした表情で正面を向いたまま、少女の名を呟いた。
シキと呼ばれた少女ははいたずらっぽい笑みを浮かべながら、セツナを顔を覗き込む。
「自己採点は?」
「0点」
セツナが即答する。
「こうして反省会を開けるだけでも上等さ。ところでこの倉庫は?」
「地域データと監視カメラの映像を突き合わせて、最近急に利用されるようになった怪しい建物を、警察のAIにリストアップさせて――」
「しらみつぶしに調査してたら、ここでばったり?」
「そう」
「それも悪くはないけど、なるべくなら手っ取り早い方法から試すのがいいかもね」
「手っ取り早い方法?」
セツナはようやくシキの方を振り向いた。
「君は今回、集団拉致の線でいろいろ調べてたでしょ。証拠を残さずに子供を何人も攫うなんて、素人の思いつきでできることじゃない。だとしたら、まず明らかにするべきは被害者の所在よりも犯罪組織の方だとは思わない?」
「…………」
「事務所に直接、聞きに行けばいいのさ」
「本気で言ってるの?」
「リンが今やってるところだよ」
「正直に答えてくれるはず無いと思うけど」
「答えないならもっと丁寧な聞き方をするだけさ」
シキはそう言って刀を少し持ち上げて見せた。
「それで拉致された子が危険な目に遭うとは考えないの?」
「被害に遭った時点で生命に危機が迫っていることに変わりはないよ」
「そうかも知れないけど」
「セツナ」
シキは改まった声で言った。
「これが現状だよ。超能力者の出現で警察の影響力は減る一方。治安は悪化し続け、マフィアも暴力団もほとんど野放し」
「…………」
毛布に包まったままパトカーへと乗り込む被害者たちを、二人は眺めている。
「だからこそ社会は僕たちのような存在を求めるのさ。より少人数で迅速に犯罪者を叩ける攻撃者を、ね」
「一つだけ教えて」
「いいよ」
「シキは、自分のやったことが悪ではないと言い切れる?」
「人は本質的に悪だよ。ただ、悪に属していても善を見出すことはできる」
シキはそう言って立ち上がり、セツナに正面から向き直った。
セツナもシキを見上げる。
「後は自分次第かな」
シキは問うているのだ。
これから行動を共にするのか、別の生き方を探すのか。
「わかった」
セツナは短く答えた。
「毎日危険な目に遭うし、汚れ仕事もやらされるよ」
「わかってる」
「そっか。だったら、改めて……」
シキが手を差し伸べた。
セツナがその手を取った。
「ようこそ、水道課へ」
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