1-6 黒い風

 セツナは里中アリスを後ろから押し倒そうとして、すぐに間違いに気がついた。

 さっきのように、瞬間移動で相手の発砲を阻止すればよかったのだ。

 だがセツナの手は既にアリスの背中に触れている。

 このまま押し倒すか、今からでも飛ぶか。

 どうする。

 どうするとは、何だ。

 考えている時間など無いのに。

 考えている時間など無いのに。


 ひゅう。

 暗闇に風が吹いた。

 黒い風だ。

 黒い風はセツナを追い越し、里中アリスを追い越し、その向こうにいる男の手首を切断していた。

「遅いよ」

 風はそう言った。

 黒い風はいつしか人の形となり、その黒い刀にまとわりついた血を払い落とした。


 男は膝を突いたまま、己の腕の断面を見て苦笑した。

「神速の小娘か……不死身が相手ならまだなんとかなったんだけどなぁ」

「リンは僕ほど甘くないよ」

 そう言って、風から現れた少女は男の頭を蹴りつけて気絶させた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る