1-5 選択肢
この時、田辺にはいくつかの選択肢があった。
このまま人質を拘束しながら道路まで進み、手頃な車両を奪って逃走するか。
あるいは人質を諦めて一人で逃げるか。
それとも、ここでやるか。
田辺は里中アリスの細い身体を左腕で抱え込みながら、右手で静かに拳銃を取り出した。
「そこで止まれ」
その銃口は追跡者であるセツナへと向いている。
「お前の超能力はなんだ。5秒以内に答えろ」
5。
セツナは銃口を向けられたまま直立している。
4。
答えなければ、セツナと里中アリスのどちらかが撃たれるだろう。
3。
セツナは銃口を向けられたまま直立している。
2。
1。
田辺は迷わず里中アリスの頭部に拳銃を押し付け、引き金を引いた。
否、引こうとした。
何者かの指が田辺の人差し指に絡みついて、発砲を阻止したのだ。
「瞬間移動か……」
田辺の真横で、セツナがすれ違うようにして立っていた。
セツナは握った敵の指を折る。
ペキ、という乾いた音と共に拳銃が地面に落ちる。
だが田辺は怯むことなく、左の拳でセツナの後頭部を打ちにいった。
セツナは避けない。
代わりに、田辺の折れた指を握りながら大外刈りのように投げ倒す。
田辺が頭から地面に叩きつけられる。
さらにセツナは、投げの勢いを利用して右肘を敵の喉にめり込ませていた。
ざざ。
波の音だけが聞こえる。
田辺は目を開けたまま意識を失っていた。
セツナは後ろを振り返る。
里中アリスがそこに立っていた。
セツナに背を向けて、両手を広げて立っていた。
何故か。
それは、倉庫から這い出た別の男が、拳銃をこちらに向けていたから。
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