1-3 強制捜査

 夕日を背に受け、セツナは周囲を見渡す。

 港湾に連なる小さな倉庫のうちの一つだ。

 正面にはトラックが一台。

 その両脇にはソファや床置きの照明などが無造作にいくつも設置されている。

 食べ物が入っていた容器や、空き瓶などがまとめられたゴミ袋も確認できる。

 普通の倉庫とは言えない有様であった。

 そして、この倉庫が普通の状態ではないということは、今セツナを取り囲んでいるこの男たちもまた、普通ではないということになるだろう。


 ガアアアアアアア。

 獣のような唸り声を上げたのは、シャッターの開閉装置だ。

 間もなくセツナの真後ろでシャッターが降りて、建物内は暗闇に満ちた。

「まあ穏便に行きましょうよ」

 男の一人がそう言って、建物内にあるスタンドライトを一つ灯し、すぐそばのソファに腰を下ろした。

 倉庫内の半分ほどがぼんやりと照らされる。

「私はここで運送業をしております、田辺と申します。あなたさっき警察とおっしゃいましたが……」

 田辺と名乗る男は口調こそ丁寧だったが、ふんぞり返って足を組むその態度からは歓迎や親しみのようなものは一切感じられなかった。

「トラックの中を見せて」

 セツナは口を開くより早く、トラックに向かって歩き始めていた。

 それを制止するように、男が両脇から前に立ち塞がる。

「令状もなしに強制捜査ですか。困った警察ですねえ」

 田辺の声には明らかに脅迫の意思がこもっていた。

「何も困ることはないと思うけど」

 セツナは横目に田辺を見ている。

 二人は睨み合う形で、短い沈黙を交わした。

 言葉を発したのは、セツナの背後に立っていた男だった。

「あのう……こいつ、もしかして、シキが拾ったっていう例のガキなんじゃ…………」

 シキという名前を聞いて、田辺の眉がピクリと動いた。

「…………」

 他の男達は、「どうしますか」という視線を田辺に送っている。

 だが田辺は何も答えない。

「私の素性とトラックの中身が関係あるの?」

 セツナは相変わらず淡々とした口調でそう言った。

「…………いえ、失礼致しました。大したものは入っておりませんが、どうぞ好きなようにご確認ください」

 田辺はにこやかに立ち上がると、片手をトラックの方へ向けたまま軽く頭を下げた。

 それを見て、男達も道を空けるように退く。

 セツナは彼らに目もくれず足早にトラックの後部へと歩み寄り、手慣れた動作でコンテナのロックを外した。

 扉が、左右にゆっくりと開いていく。


 そして、セツナは見た。

 薄暗い照明の下、ベッドに繋がれた少女たちを。


 里中アリスは見た。

 外界からこちらを見上げる一人の少女を。

 そして、彼女の首元に刃物を突き立てようとする男の姿を。

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