第4話 論破の時間

 程なくして、先生の掛け声と共にディベートが開始された。

 

 そもそもディベートに勝敗なんて概念が存在するかは俺にはわからないけど、もしこのディベートに勝ち負けが存在するとしたら、ほとんどの人が『いじめ否定派』の勝利を予想すると思う。

 

 だってそもそも議論の余地がないからね。いじめという存在自体が人類共通の『絶対悪』だというのは自明だし。

 


 ……だけど、俺にはこのディベートで負けるビジョンが浮かばなかった。


 それは、自惚れとか過信じゃなくて、もっとこう、確信的なものだった。

 

 ……だから。

 

 「んじゃあ君たちに聞くけど、なんでいじめを肯定するわけ? 正直私たちには意味わからないんだけど」

 「いじめの何が楽しいの? いじめて何になるわけ?」

 「南野さんはまだしも池田は意味がわからない」

 「それな! 池田なんでいじめ肯定してんの? 馬鹿なの?」

 「うーわマジでキモい。ちょーあり得ないんだけど」

 「…………」


 開口一番にごもっともな意見の集中砲火に晒されたとしても、俺は冷静さと沈黙を保つことができた。相手の心を抉り取るような、懐への致命的な1発を入れるための冷静さと沈黙を。



 沈黙を決め込んでいると、4人組のリーダー格・成田さんが口を開く。

 

 「ねぇ黙ってないで反論したらどうなんですかねー。おふたかたさんよー」

 「…………」


 ここでも俺は沈黙をキメにかかる。その様子を見て不安になった南野さんは俺を心配する。

 

 「だ、大丈夫? 池田くん。わ、私が反論しよっか?」

 「いや。大丈夫だよ。俺に考えがあるから任せて」


 心配されたので耳打ちで南野さんを安心させる。大丈夫。だってこれが狙いだから。


 「チッ……クソが。いちゃつくなよ気持ち悪い。早よなんとか言えよおい」


 その様子を見た成田さんは舌打ちと共に青筋を立てた。成田さんだけでなく、『いじめ否定派』のほとんどの人が俺にフラストレーションを溜めているようだ。


 (……そろそろかな)

 

 その様子を見た俺は、ようやく反論に出る。

 

 「確かに前提としていじめはいけない事だし、やってもいけない事だけどさ。でもじゃあ聞くけど、」

 

 俺は大きく深呼吸する。

 

 「今俺が黙っていた数十秒間の間に君たちは果たして何回俺に暴言を吐いたのかな」


 『………………』


 俺が問うと、否定派はすっかり黙ってしまった。カウンターをモロに喰らった格好だ。

 

 「ほらね? すぐに否定しないってことはみんな俺に暴言を吐いたってことだよね?」

 「い、いやいや吐いてねーし! てかディベートなんだから相手側の意見を否定するのは当然でしょ?」

 「否定するのと相手に暴言を吐くのは違うと思うけど、そこはどう思ってるの?」

 「だから吐いてねーし! 言いがかりにも程があるだろ!」


 俺の問いかけに対する成田さんの答えは、暴言など言っていないの1点張り。


 (……思いっきり吐いてたと思うんだけどなぁ)


 具体的には「クソが」とか「気持ち悪い」だとか。にしてもクソはないでしょ! 汚物じゃないんだぞ俺は!


 心の中でツッコミを入れつつ、よし。一旦矛先を変えよう。頑固さんの相手は面倒臭いからね。


 「そうかそうか。んまぁ、じゃあ成田さんは善良な人間だから吐いてないとして、後ろの人たちはどうなのかな? 正直に俺に暴言を吐いた人、別に恨んだりしないから手を上げてみてよ」

 

 「将を射んと欲すればまず馬を射よ」理論で、俺は後ろの沈黙を維持していた生徒に問いただす。


 すると意外にも半数近くが手を挙げた。てっきり5人くらいしか挙げてくれないものだと思ってたけど。

 

 「……ねっ? やっぱりそうじゃん。ってことはつまり今、君たちの半数はディベートとはいえ少数派の人間を寄ってたかって酷いことを言ったことになるね。これって普通に考えたらいじめだよね? いじめを否定してる当の本人たちがいじめなんて酷い話じゃないか」

 

 否定派の図星を突くような言葉で、相手側の半分を瞬殺。続けて俺のターン。


 「それにさ。いじめ否定派の、特にそこの4人。成田さんと中田さん、それから栗田くんに織茂くん。君たちはそっち側にいちゃいけない人間だと思うんだけど」

 『……はい?』

 

 4人揃って「何言ってんのこいつ」の反応をする。褒められたものじゃ無いけどこの4人、息だけはピッタリだよね。特に南野さんいじめる時とか。もうそれはティキタカって感じで凄かったもん。


 ……でも、君たちの化けの皮、剥がさせてもらうよ。


 「何シラを切ってるのさ。だって君たち──」


 言って、俺は一呼吸置く。


 「──ここ1ヶ月半の間、ずーっと南野さんのこといじめてたじゃん」


 「「……えっ?」」


 俺の唐突の発言に、静寂を保っていた先生といじめを知らなかったクラスの生徒が思わず声を漏らす。その余韻を残して、クラスから音という音が消え去った。

 先生といじめを知らない生徒には知られざる真実を、いじめを知っていて尚黙認していた生徒には衝撃の一言を、いじめっ子張本人たちには俺が反逆の狼煙をあげたことを知らせる告発だった。



 静寂を破ったのは先生だった。


 「……ど、どういうことですか? 池田くん」


 先生は動揺を隠しきれていなかったが、俺はそのまま説明する。


 「そのまんまです。先生の目の届かないところで南野さんはそこの4人組にいじめられていました」


 続けて俺はいじめの具体的内容を説明していく。


 「いじめが始まったのは先月の上旬からです。先生もご存知かと思いますが、11月初めに南野さんのお父さんが死亡事故を起こして捕まって。そこから南野さんへのいじめが始まりました。最初は『人殺しの娘』だのなんだので陰口から。最近では机の中が荒らされていたり物を隠されたり。クラスでも中心人物の南野さんがと、信じられないと思いますが、全て本当のことです」

 「…………」


 聞いて、先生は驚きを超えて無になる。

 

 ……そりゃ無理もないと思う。クラスで最も信頼されていて、誰にでも分け隔てなく優しく接し、このクラスの主人公でもある南野さんが生徒が自分の知らないところでいじめられてたと知れば、言葉を失わない方がおかしい。

 

 あるいは、自分が1ヶ月半の間何もできなかったことを知って自分の非力さに絶望しているのかも知れない。

 

 教師たるもの、生徒に寄り添って然るべき存在である。生徒が正しいことをすれば褒め称え、間違ったことをすれば愛を持って叱る。それができなかった教師というものは当然のように『教師失格』の烙印が押されてしまうものなんだ。


 ……でも仕方ないよこれは。こいつらの手口、かなり巧妙だったから。


 その証拠に。


 「そんなわけないじゃないですか先生。私たちがいじめなんて。池田がちょっととち狂っただけですよ」

 「そうですよ先生。こいつの言いがかりです。むしろこれこそいじめでしょ」

 「私たちがいじめ? あり得ない」

 「戯言言ってねぇで池田。そんなこと言うなら証拠出せよ証拠」


 この自信のありようである。「証拠出せよ証拠!」とか言っていること自体が証拠だと思うんだけどね。



 ……でもその手は対策済みだよ。君たちのタチの悪さと狡猾さは身に染みて理解したつもりだから。



 俺は無言でスッと立ち上がり、成田さんの席の前に行く。


 「ちょっと失礼」

 「ちょ、何してんの⁈ キモいんだけどコイツ! 死ねよ!」

 「ごめん。死ねない。キモいのは認めるから少し静かにして」


 成田さんの抉るような暴言を軽くあしらい、俺は成田さんの机の裏に固定しておいたスマートフォンを取り外す。画面に映っていた録画ボタンを押し、動画撮影を終了した。

 

 「えーっと……うわっ、収録時間4時間27分か。これはイカつい……。ストレージギリギリだぞ。終わったらあとで消しとかないとだな」


 充電も残り20パーセントだし。帰りはラノベで耐え凌ぐしか無いな。


 俺がボソッと呟くと、成田さんが剣呑な雰囲気で棘を刺す。


 「何よそれ」

 「え、これ? 見ての通り俺のスマホだけど」

 「は? 別にそういうことを言ってるんじゃないんだけど。あんたバカなの?」

 「残念。俺は馬鹿者じゃなくて大馬鹿者だよ」

 

 成田さんの切れ味鋭いナイフのような口撃をスルーして。


 「さて、じゃあ証拠を出せと言われたもんだから証拠を出すけど、このスマホの録音データ。俺がさっき『誰か1人こっちに来てほしい』って頼んだ時、南野さんが押し出されるようにしてこっちに来たでしょ? その時君たち、しれっと南野さんに酷いこと言ってたよね」


 言いながら俺は携帯をぬるぬる操作する。


 「……おっ。あったあった。それじゃあ流すね」


 スマホの音量を最大にして、俺は再生ボタンを押した。




 ーーーーーーーーーー



 『……さすがにそれじゃあ池田くんがかわいそうか。うん。そうですね。そうしましょう。申し訳ないんですけどナシ派の方でどなたかアリ派に移動してもらってもいいですか?』



 ………………。



 『美波。あんた邪魔だからあっち行って』

 『そうだよ。南野がいけよ』

 『あいつの隣だろ? 行けよさっさと』

 『こっちにいたって邪魔だから。ほら早く』


 (ガンッ!)



 ーーーーーーーーーー




 そこにはしっかりと成田さんをはじめ、いじめっ子4人組による陰湿な暴言が録音されていた。


 「……ねっ? 聞こえたでしょ?」

 

 はっきりと残っている音声データ。そこには確かに南野さんに心無い言葉を浴びせる4人の声が存在した。




 ……実はこれがさっき打った布石の真の狙いだ。


  一般的にディベートは少数派よりも多数派の方が一般的には有利であることの方が多い。そもそも多数派になる要因こそがそのディベートに対する答えとなり得る可能性が高いことにあるし、逆を言えば少数派というのはエキセントリックなことを主張することになるから。

 

 だから確かに俺は、『いじめ肯定派』に1人欲しいと言った。


 だけど、実際に1人来たところで圧倒的少数には変わりない。どんなに優れている人間だとしても1人の力はたかが知れてるし、そもそも事前にテーマさえ知っていれば、少数派だとしたって多数派の意見を覆すことだって可能だ。


 だから俺がもう1人を求めたのは味方を増やすためではない。南野さんが半強制的に追い出されるこの状況を意図的に生み出し、それを証拠として相手に見せつけ、いじめの証拠として突きつけることこそが、俺の狙いだった。




 ……で、実際突きつけてあの4人にダメージを与えられればよかったんだけど。


 「だから?」


 成田さんが不機嫌そうに反論してきた。


 「ちょ、ちょっと成──」

 「だから何? 邪魔だからどいてって言っただけなんだけど私。物理的に邪魔なものを邪魔って言って何が悪いの?」


 先生が会話を遮断しようとしたが、気の弱い先生は成田さんに押されて黙り込む。成田さんにはダメージどころかバフが掛かったかのように不快感が強まる。

 

 ”邪魔”の意味に違和感を感じた俺はすかさずツッコむ。

 

 「邪魔って、それは物理的じゃなくて精──」

 「そうだろ池田。邪魔だからどけっつったら南野が勝手にそっちに行っただけ。お前の勝手な解釈でいじめと断定するのは冤罪も甚だしい」

 ──神的な意味が多く含まれてるんじゃないかな──って言おうとしたら、成田さんの隣にいた中田さんに力でねじ伏せられた。俺がツッコんでいる最中なのに! 俺の話を聞けっての!


 ……とも思ったけど、中田さんの指摘はこれまた鋭い。


 「確かにそれは中田さんの言う通りだね。俺が勝手な憶測でモノを言うのは間違っている」


 中田さんの言っていることは正鵠せいこくを射ている。憶測の情報なんて信用に値しないし、憶測でなかったとしても俺にその可能性がある以上は言い返す事自体が不毛だ。南野さんがどう解釈したかなんて憶測の域に過ぎないから、俺からは言い返せない。


 ……でも。


 「でも、自分が発した言葉の意味って、言葉を受け取る『相手側』が決定するよね? だとしたら君たちだって南野さんに吐いた言葉の意味を憶測しているし、物理的に邪魔っていう意味を押し付けるのは間違っているし、そもそもこの際重要視されるべきは『南野さんがどう感じたか』じゃないかな?」

 「「…………」」


 俺の完璧な返しに対して、2人は黙り込んでしまった。図星、っていう感じの表情で、少なくとも苦しくなくはない表情だ。


 2人をよそに、俺は南野さんに声をかける。


 「で、南野さん。どう感じたのかな? 今の暴言もそうだけど、今までそういった心ない言葉ばっかり浴びてきて」


 横を見ると、南肩をわなわなと震わせながら俯く南野さん。自分の本心を言っていいのか、言ったらさらにいじめが悪化するのではないか、そんな恐怖に怯えているようにも見えた。

 俺は人の心を読める超能力者ではないけれど、優しく耳打ちする。


 「大丈夫。落ち着いて。南野さんのこと救うって、俺、約束したでしょ?」


 言われて、ハッとした南野さんは俺を見る。俺が軽く頷くと、南野さんの目からゆっくりと涙がポロポロとこぼれ落ちた。

 

 そして再び俯くと、しゃくり上げるような声と共に、南野さん。


 「……つら……かった……! ……今回……だけじゃなくて……今まで……1ヶ月半……ずっと……!」


 訥々と語られる南野さんの胸中。その悲痛な胸の内を聞いて、少しずつクラスに南野さんを擁護する雰囲気が生まれる。


 周りの空気を背に受けて、俺は攻勢を強める。


 「これが第2の証拠。涙ながらに南野さんがそう言ってるんだ。これを見て演技というならそれまでだけど、この涙に嘘はないと思うよ? そもそも南野さん、みんなの前で泣いたこと無いし。それともこの涙に嘘があるとでも?」


 クラスには南野さんの啜り泣く音が響き渡る。


 「……違う」

 

 ポツリと成田さんは呟いた。


 「……違う……違う……違う……違う違う違う違う違うっ! それだけじゃ私たちが美波をいじめた証拠にはならない! 確かにその音声テープのことは認めざるを得ない! でもそれは一過性のもの! つまりこれはお前の詭弁! もっぱらおかしな話なのよ!」

 「そ、そうだぞ池田。私たちがさっき南野に邪魔といったことに対しては失敬だったが、いじめとは継続性のあるものでなければいじめではない」


 成田さん、中田さんと抗議の声を上げると、栗田くんと織茂くんも続けて、口を揃えて抗議する。その鋭い視線は俺たち2人に注がれる。


 (……マジか……ここまでいい感じに告発しても、まだ反省の色が見えないなんて……)


 確かに4人の指摘することは間違いじゃないんだけど、正直この4人にはうんざりした。今俺が出した音声データや南野さんの涙がいじめの決定的な証拠では無いにしろ、南野さんに暴言を吐き、その言葉が南野さんを傷つけたという事実に対して全くの謝罪なし。その上まだ自分達がいじめを認めないって言うんだから。


 (やっぱりいじめっ子はどこまでいってもいじめっ子なのか……腐ってやがる)



 となれば俺に残された手札はただ1つ。


 あまり使いたくは無いし、うまく使わないと大惨事を招くし、第一これは誉められたやり方じゃ無いんだけど、もう吹っ切れた。腐った人間には臭い飯を食わせないと。


 「あまりこういう脅しは好きじゃ無いんだけど」


 言って、俺は4人の方へ向かってそれぞれ封筒を1つずつ叩きつける。


 「なんだ……これ?」

 「誰にも見られないように見たほうがいいよ?」


 俺はみんなに聞こえないように耳打ちする。俺なりの親切心だ。


 (……だってその中身、見られたらきっと君たちがいじめられるから)




 俺が4人に突きつけたのは、『学校内』で南野さんをいじめていた映像。その一部を静止画にして、俺は渡したのだ。


 最初から「バンッ!」って叩きつけた方が効率的なのは重々わかっていた。けれども、ディベートには流れがあり、いじめには空気がある。のっけから証拠叩きつけてもそれはディベートじゃないし、いじめの半分は集団の雰囲気で決まるようなところがある。みんなに考えてもらってこそ真のいじめの解決につながると思ったから、俺はあえて最初から叩きつけなかったんだ。


 それに、俺は圧倒的少数の状態でディベートで勝ってみたかった。背景キャラでも、圧倒的不利な状態でも、本気を出したら主人公キャラに勝てるのか。ちょっと試したくなってさ。


 ……ちなみになんで俺がこの画像を持っているのかって?


 ふっふっふ。舐めないでもらいたいね!


 いいかい? 背景キャラっていうのは自然とインターネットとかSNSとかに強くなる生き物なんだよ。友達も彼女もリアルにいなさすぎて「ネットは友達! 彼女は漫画の負けヒロイン!」とか平気でやっているのが背景キャラなの。そりゃ「ボールが友達!」とか「クラスのマドンナが彼女!」とか言いたいけどさ。リアルで言おうものなら気持ち悪がられるでしょ? リアルがダメならそりゃバーチャルで頑張るしかない訳ですよ。


 そんでもって俺は背景キャラ歴8年のベテラン。もはやインターネットの主人公キャラと言ってもいい頃合いの俺にかかれば、学校の防犯カメラにアクセスして証拠映像を手に入れるのなんてお茶の子さいさいなわけですよ。



 

 俺の想定通り、4人それぞれが封を切って中身を見ると、表情が一気に悪くなった。


 「お、お前……一体どこで……?」

 「さぁ? 自分達で考えたらどうかな?」

 

 戦慄している4人をスルーして、俺は脅しをかける。


 「じゃあそれぞれが確認したってことで改めて聞くけど、君たちには今、目の前に2つの選択肢があります。1つ。南野さんへのいじめを認めて金輪際、人間をいじめない選択肢。1つ。君たちに南野さんが受けた何万倍規模のいじめを体験してもらう選択肢。もうそれを見た以上はきっといじめを認めざるを得ないんじゃないと思うけど、どっちを選ぶ? ちなみに君たちに今渡したものは俺のパソコン上のクラウドにしっかり保存してあるから、変な抵抗はしないほうがいいよ?」

 

 

 ──かつてバビロン第一王朝が定めたというハンムラビ法典。そこには有名な一節がある。


 『目には目を。歯には歯を』

 

 目を失わせた者は、自分の目を失うことで罪を償い、歯を失わせた者は、歯を失うことで罪を償え、という意味の一説だ。


 俺は今、このハンムラビ法典と似たようなやり方を4人に持ちかけている。「君たちは南野さんをいじめた。だからもしいじめをやめないのであれば君たちに今見せた奥の手『証拠映像』をネットにばら撒き、社会的に君たちをいじめるぞ」と。


 全く褒められるようなやり方ではないことは重々承知している。なんてったって俺のやろうとしていることは脅しであり、社会という圧倒的多数の人数を先導して行う、紛れもない『いじめ』なのだから。


 でも、いじめを抑止力として働かせることでいじめが無くなるのであれば、それはそれで良いと思う。きっと立派な解決策の1つだ。きっとこれに懲りて反省してくれるだろう。



 ……そして。

 

 しばらくの静寂の後、4人はゆっくりと俺の問いかけに頷いた。頷きで答えるような問いかけではなかったけど、それがいじめを認めるというサインだということは、理解に容易かった。


 これで一件落着。俺は主導権を先生に渡す。何が起こっているのかよくわかっていない様子だったけど、まぁいいや。

 

 「じゃあ先生。4人とも南野さんのいじめを認めたようですし、ディベートは俺の勝ちっていうことで、とりあえずその4人の生徒指導をお願いします。きっと反省すると思うので」

 「は、はい……」


 言うと、先生はのっそりと席を立つ。


 「じゃ、じゃあ、4人は詳しく、お話をしましょう」


 言われるがままに4人は先生に連れられて教室から出て行った。先生含め5人ともに、表情を失っていた。

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