Prologue…R 201x
甘くて苦い香りが漂っていた。
秋の夜とはいえ、まだ夏の暑さも続いている。
繁華街の喧騒の中そこだけ別の空間のように眼の前には廃ビルが佇んでいた。
「よぉ」
視野の外から声がかかる。
「…裕貴か…久しぶりだな」
声の主が判っていたので俺は振り返らずに答えた。
「数年振りだな、相変わらずか?」
振り返らない俺にも慣れた調子で声の主、裕貴は話しかけた。
「たまには事務所に顔をだせよ、すずも久しぶり顔を見たがってるぞ。」
俺の隣に来てタバコに火を着けながら裕貴はそう続けた。
「判ってるよ、始や、誠、すみれちゃんとかも頑張ってるみたいだな」
俺はそう言うと飲んでいた缶コーヒーをゴミ箱に捨てて歩き出した。
「連れないなー、まだあの時の事をうらんでるのか?シグにゃん?」
タバコを半分ほど吸い終えた裕貴は戯けて追いかけてきた。
「それは関係ない、逆にいつまでも蒸し返すな。っと今日の事は涼華ちゃんには伝えてきてるんだよな?」
俺は歩みを止めて裕貴を振り返り告げた。
「おう、『私も行く!』って聞かなかったが身重だからって断るのを苦労したぞ」
「すまんな、今度誘うって言っといてくれ。」
裕貴は高校を、卒業と同時に『面白い事を思いついた』と言いだし企業を立ち上げ、なんと涼華ちゃんの卒業と同時に籍をいれた。
仕事は順調らしく未だに社長業を楽しそうにやっている。
「今日は久しぶりなんだし目一杯飲むぞー!」
裕貴は俺の肩に腕を回しそう告げた。
「仕方ない、飲むか!」
俺は嫌がりもせず、裕貴と共に繁華街の明かりの中に消えていった。
「ふぅぅぅっ」
裕貴は大きく溜め息をついた。
居酒屋では昔話がほとんどで『○○が結婚した。』や『あの時の〇〇は』ひいては『そろそろうちの会社に入れ』など切りが無いほどに盛り上がり、2軒目のバーでも話と酒が止まる事無く。
日付が変わるか変わらない頃に俺達は店をでた。
「そろそろお開きにするか、涼華ちゃんにも申し訳ないし」
携帯の画面上の時計を見ながら俺は少しえづいている裕貴に告げた。
「お、おう。時雨なんなら家泊まるか?俺の家のほうが近いし多分すずも喜ぶ。」
水を飲みながら裕貴は俺にそう言った。
俺は…
「いや、今日はいいや…寄るところがある。」
そう告げた。
すると裕貴はさっきまでの酔いが嘘の様に
「……そうか…まだ、囚われてるんだなその呪…」
ダンッッッ!!!!!
俺は裕貴の胸ぐらをつかみ壁に押し付けて
「裕貴…酔ってて言ってるんなら今回だけは目を瞑ってやる。俺はあの時の事は忘れても忘れるつもりもないし囚われてもない。
それに呪いと言っていいのは背負ってる俺だけだ」
普段は出さないような低く圧の有る声を出して早口で言った。
「すまん、やりすぎた。タクシー拾ってやるからさっさと帰れ。仕事の件はかんがえといてやる。」
むせている裕貴に目もくれずタクシーを拾いそれに裕貴を乗せて見送った。
去り際、裕貴は憐みともなんとも取れない表情で俺をみていた。
それから数分後
「また、やっちゃいましたよ、普段なら裕貴に対してあんな事しないのに」
俺はウイスキーをストレートで飲みながらボヤいた。
そこはとあるビル
の屋上
側には誰がいる訳でも無く。
足元には同じウイスキーの瓶と紫煙の登るタバコが一本置いてあった。
「…大丈夫、大丈夫です。大人になって、男になってくにつれてきついこととか泥に塗れる様なこと多いですけど…ちゃんとあの言葉忘れてないです。」
俺はそう誰も居ない空間に向けて話すともう振り返らずに階段を降りていった。
※作者より
いつも読んでくれる方もはじめましての方も
あけましてございます。
新章開幕です。
この章はプロットはsより前に出来上がっていたのですが
なんとなく書くのを後にしました
今年も亀更新ですがよろしくお願いします。
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