歯科
長万部 三郎太
抜くしかありませんね
日頃の不摂生か、あるいは磨き残しか。
以前より放置していた奥歯の鈍痛が昨晩から悪化し、あまりの痛みに耐えかねたわたしは十数年ぶりに歯科へ行くことにした。
しかし、ここは山奥。病院はもちろん、民家すら稀にしか見かけないへき地だ。
痛みをこらえながら車を走らせると、寂れた病院を見つけた。
文字がかすれて読みづらいが、確かに看板には『閻魔歯科』とある。
珍しい苗字もあるものだ……。
しかし関心してる時ではない。痛みは増す一方なのだ。
わたしは受付時間であることを祈りつつ脇に車を停めた。
そこが病院の敷地内かどうかもわからなかったが、一刻を争う事態だ。
車を降りたわたしは駆け込むように病院のドアを開けた。
「診療時間内でしょうか!?」
受付にいた女性に尋ねると、事情を察してくれたのかすぐに施術室へと案内してくれた。
わたしは診察台に座り、一秒でも早くこの痛みが消えることを願った。
しばらくして担当医が入室すると、わたしの口内を確認しはじめた。
そしていくつかの質問を投げかけた。
「痛みの症状は今日から出ましたか?」
「当院の駐車場はわかりましたか?」
「定期的に歯科へ通っていましたか?」
後ろめたさと恥ずかしさから、わたしはすべて「はい」と答えた。
「これは抜くしかありませんね」
そういうと閻魔先生は歯ではなく舌のほうを抜いた。
(筆休めシリーズ『歯科』 おわり)
歯科 長万部 三郎太 @Myslee_Noface
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます