第5話 オカルト研究部
「おい、日比野!五月雨さんとどういう関係なんだ!」
「日比野くんって彼女いたの!?」
「おい答えろ!!」
放課後、俺は朝の一件でめちゃくちゃ質問攻めに合っていて、同じく攻められていたささらをテルとユキと共に連れてオカルト研究部の部室にやってきた。
部室には侑と他の部員も既に来ていた様で俺達が最後だった。
学校は部活強制参加だったので俺と侑は霊視が出来るって理由でこの部活に席を置いていた。
先輩も後輩も気のいい人が多くて気が楽なのもあるし、俺のこの奇妙な体質のこともなんか分かるかも知れないし、俺的には割と気に入っている。
因みにささらは兎も角テルもユキもオカルト研究部には所属していない。二人とも人気者だし運動もできるしな。
「やーやーすっかりお騒がせ者だね日比野くん」
「すんません部長。人連れてきちゃいまして」
「いいや構わんさ。オカルト研なるもの…おうふっ!?」
「お兄!遅いよ!!」
華麗に謎のポーズを決めつつ寛大な事を言ってくれてる部長を跳ね除けて侑が駆け寄ってきた。
「お兄どういうこと!?転校生といきなり抱き合ったって聞いたんだけ……」
侑はそこまで言って横にたっているささらの存在に気がついた様だ。
「え、ささらちゃん!?」
「侑ちゃん!」
ささらと侑は駆け寄るとギュッと抱きしめ合う。
侑もささらに良く懐いてたし本当に嬉しい様で、ささらの胸に顔をグリグリと擦りつけている。
「どうして?何でささらちゃんが居るの?」
「今日引っ越してきたんだよ〜。二人に会うためにね」
「わ〜♪嬉しい!懐かしいなぁ〜」
二人が懐かしさに喜びあっている中テルが我慢の限界を迎えたのか割って入ってきた。
「そろそろ説明してもらっていいか?三人は昔馴染みとかなんか?」
「そうだな、説明するわ」
俺はテル、ユキに合わせてオカルト研究部の五、六人の視線を集めながら説明を始める。
「七年前に一週間だけ一緒に過ごした事があるんだよ。」
俺はそれを言うと口を噤む。正直これ以上の事はなかったし。
「いや説明下手か!それだけでここまで感動的な再会出来るもんなのか!?」
テルが流石に慌てて突っ込んできた。
流石に一言じゃ無理があったか…。
でもどう言ったら良いんだよ。山神様に魅入られて三人とも死にかけたなんて言えるわけねぇし…。
いや、オカルト研究部だし別におかしい事は無いけど、もしそこに行こうとかなったらシャレにならないしなぁ。
俺がどう言おうか迷っていると、ささらが助け舟を出してくれた。
「実はある事件に巻き込まれたのがきっけけで知り合ったんですよ。それで私達三人とも生死を分ける目に会ったと言いますか…。あまり詳しい事は言えないのでこれ以上は勘弁して頂けると助かります」
優しく聞き取りやすい声で何事も無いように説明してくれたささらに流石にテルも納得してくれた様だ。
「それはあれかい?オカルト的な側面からかい?」
いや鋭いな!なんでこの部長はオカルトの話に対してのセンサーが異常に高いんだよ。
「……ぶちょー。死ぬ覚悟があるなら教えてもいいですよー?」
「「侑!?」ちゃん!?」
俺とささらがそろって侑を驚き見ると侑はユキに近づいて抱きついていた。
なんか昔から抱きつき癖あるんだよなこの妹…。
「なら辞めておこう!霊視能力のある兄妹が止めるんだ!辞めるべきだな!」
「え、マーくんって霊感あるの?」
「ん?おう。俺だけじゃなくて侑も見えてる」
「私はお兄程じゃないけどね〜」
ユキは心底驚いた様な顔をしてみせた。
「どうかした?」
「あ、ううん。別に…。あー、そんなの長い事一緒に居るのに初めて聞いたなぁって!」
「まぁ別に見えるからって自慢するような事じゃないからなぁ」
「そうか?よく居るじゃん、私霊感あるんだ〜!って言う人」
「テルくん、その人多分霊感ないよ」
「そうなの!?」
「だってさー?霊感なんて百害あって一利もないよ?下手したら霊に魅入られるし」
「やっぱり関係あるの?」
「そうだよー?ああいうのは自分の存在を見てくれる事に飢えてるからね!ユキちゃんも魅入られないように見ないふりした方がいいよ〜?」
「じゃ、じゃあ自分から霊感あるって言う人はちょっと信じない方がいいのね」
ユキがどこか辛そうな笑いで抱きついてきてる侑の頭を撫でながら言うや否や、ささらが口を挟んできた。
「あ、私は見えますよ?」
「じゃあ五月雨さんは見えてないわけか」
「いやささらは見えてる。」
「お前の理論速攻破綻してんじゃねぇか!」
程度はどれ程かは分からんけど確実にあの山神の事は見えてたもんなぁ。それが原因で魅入られたのかもしれないし。
「君も見えるのか!?どうだい?オカルト研究部に!」
部長にいきなり勧誘されたささらは、その綺麗なバイオレットブルーの瞳でこちらを見てくる。
「俺も侑もここ入ってるぞ」
「じゃあ私もここ入ります!」
「よし!侑ちゃん以来の美人部員きた!」
「そんなこと言ってると深雪センパイブチ切れますよ。」
「み、深雪君は別だろう……な?」
いや、な?と言われても…。深雪先輩という何ともカッコイイ女の先輩がいるのだが、その話はまた別の機会に。
「そ、そそうだ!そこのふたりはどうする?」
「え、俺たち?」
「…………」
テルはあからさまに困惑してる。まぁだろうな、こいつオカルトとか本当に興味無いし。
ユキもテルと一緒に断るのかと思って、そう声を掛けようかと思ったのだが。
「五月雨さんも入るんだよね…。」
「?はい…」
「じゃあ入る!」
「お、おい無理しなくていいぞ?お前怖いのとかかなり苦手だったろ…」
「マーくんは黙ってて!」
「は、はい!」
急に怒鳴られて氷水を背中にかけられたように背筋が伸びる。
「良いから入るの!」
「はぁ。まぁこうなるかぁ。じゃ、俺も入りますわ」
「おおお!!ではではこの入部届けに…」
「常備してあるんだ…」
俺はこの時のユキの顔が妙に鬼気迫る物があったのが忘れられなかった。
結果、ささら、ユキ、テルの三人が入部してオカルト研究部は部員が10人を越えることになるのだった。
◇
帰り道、ささらが俺と帰り道が同じ事もあり、侑を交えた三人で田舎道を歩いていた。
まだ春とはいえ少しずつ暑くなってきて、虫の鳴き声が妙に大きく感じる。
「そう言えば何で二人はオカルト研究部に入ってるの?」
「ん?別にそんな大した理由じゃない。ただ俺達は姉ちゃんを元の世界に返してやりたいんだよ」
「異世界に?」
聞いてくるささらに頷いて返す。
「返すって、そんなことできるの?」
「実際の所は分からない事だらけだしな。ただ、姉ちゃんの口ぶりから恐らく方法は存在してる」
「じゃあそれを聞けばいいんじゃないの?…いや、断られたってわけね。お姉さんに」
「まぁそういう事だ。何でも前の世界じゃ若き天才死霊術師って言われてたみたいでな。そこら辺の記憶も理解できないことの方が多いな」
「そんでもって霊力?を高めるには色んな霊体験を積む必要があるみたいでな」
「それでオカルト研究部にいる訳なのね。」
「実際居心地いいのもあるしな。変に話しかけられないし」
「そういう所は相変わらずだなぁ。だめだよ?もっとコミュニケーション取らなくちゃ」
「い、良いんだよ!変に懐に入れれるのは嫌いだ。」
「その割にお兄ってばささらちゃんにゆるゆるだよね」
「やかましい!」
確かにささらは初恋の相手だし、仕方ないだろ!
俺は心の中で怒鳴ると姉ちゃんがこれみよがしに煽ってくる。
俺の安息地は一体どこにあるんだ…。
「それで、正尚くんはお姉さんに習って何かできるようになったの?」
「何年か練習してこれだけはできるようになった。」
俺は歩きながら右手に死神が持つような大鎌を顕現させた。
「おお!?一言言ってよ、危ないじゃん!」
「別に驚くことないって、そもそも見えない人にはハッキリと見えないしな」
ささらはびっくりして距離を取るが俺はその驚いた顔が可笑しくて少し吹き出した。
俺が出した大鎌は所謂霊力を使った物だ。
普通の人にはまず鎌には見えないし、当たらない。薄らとぼやけた大きな棒を振り回してる様に見えるらしく、あまり記憶にも残らないらしい。
そんなピーキーな見た目してるせいか性能もかなりピーキーだ。
「しかも肝心の霊切れないしなこれ」
「そうなの?こんなに立派なのに」
「あくまでも切れるのは霊と霊が執着してるモノとの繋がりだけだからな。除霊は出来ないし、時間経ったら普通に元に戻るからなぁ。一時的に弱体化させる位しか出来ない」
「ちなみに私はお兄と違って御札系が使えるよ〜」
「侑ちゃんもなにか出来るの!?」
侑はポケットから数枚のお札を取り出すと得意気にささらに見せつけた。
侑のは主に防御の効果が高い。
霊から身を守ったり、霊から姿を見えなくしたりだな。姉ちゃんによると俺より陣の扱いが上手いらしく、圧倒的に応用がきくらしい。
まじで肩身が狭いんだよ最近は。
「へ〜侑ちゃんも凄いなぁ。でも!私も何もせずに七年を過ごしてきたわけじゃないよ?」
「と言うと?」
「私は巫女修行を積んで除霊が出来るようになりました!」
「「巫女!?」」
俺と侑が声を同じに驚いた。
「驚きすぎだよ二人とも。でもまだ完璧に扱えてる訳じゃないから、霊と依代の繋がりが強いと除霊出来ないんだよね」
「そうか。……ん?それって」
「そうだよ!今の正尚くんの話を聞いてピンと来たんだけど、良いコンビになれそうじゃない?」
「確かに、道理にかなってはいるな。よろしく頼むよ」
俺が繋がりを断ってささらが除霊する。誰かに仕組まれた様な綺麗なハマり方だ。
俺が右手を出してささらと握手をすると侑が強引に手を重ねてきた。
「なーに二人だけでいい雰囲気作ってんの!私も居るんだけど!」
「ははっ、そうだったな。すまんすまん」
「お兄のばか!!」
そういいながら侑の顔は嬉しそうにはにかんでいるのだった。
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